入院中の飼い鳥の看護について
○岡島 晶子、氏林 真登加 (中津動物病院)
はじめに
中津動物病院は大阪市の南に隣接する堺市の北西部にあり、商工地域に分類される立地にある。この一年間(2000年6月20日~2001年6月19日)の新規初診件数1542頭を 動物種別に見てみると、最も多いものは鳥類758頭(49.1%),次いでイヌ302頭(19.6%)、ハムスター等のエキゾチックアニマル273頭(17.7%)、ネコ209頭(13.6%)であった。
この内、鳥類はセキセイインコが337頭(44.4%)と最も多く、次いでブンチョウ108頭(14.2%)、オカメインコ102頭(13.4%)、ボタンインコ69頭(9.1%)、ウズラ、カナリア、ワカケホンセイインコ、モモイロインコ、コバタン、九官鳥の順であった。最近の一年間に入院治療した鳥は63頭であった。今回はこれら入院鳥の看護について当院で行っている方法を紹介したい。
入院治療を必要とする鳥。
1食欲が低下して体重を維持できない症例。
2食欲を示すが、嚥下障害を示す症例。
3体温が低下するなどで、虚脱状態の症例。
4全身麻酔・外科手術後の管理が必要な例。
5呼吸困難があり、持続的な酸素吸入が必要な症例。
病鳥の看護の基本項目として
1正常体温が維持されていること。
鳥が活発に行動し、時に羽根を繕い、さえずり、餌をついばんでいる時は、直接体温を測らなくても、正常体温が維持されていると推定される。これに対して、不活発で、止まり木上に停立し、時々体を不快そうに振るわせて、頭を羽根の間に突っ込んで羽毛を逆立てている時は体温が低下していることを示している。鳥の正常な体温は41℃~42℃で、このような高い体温は安静状態から一気に飛行と言う酸素消費量の多い運動に移行できるように常に暖気運転の状態を維持している為と考えられている。種々の疾患によって食欲がない、とかあるいは食欲があっても餌を嚥下できない時には貯蔵してあるカロリーを消耗し尽くして早期に低体温に移行すると考えられる。体温を正常に保つことは鳥の看護の上で最も重要な項目である。入院鳥は多くの場合30℃に調節された新生児用哺育器(インキュベター)に収容している。ダイアル表示だけでなく、温度計でも哺育器内の温度を監視する必要がある。あるいは赤外線ランプを止まり木の1本に向かって照射し、ケージ内の温度勾配を作って鳥に快適な場所を選択させるのも良い方法である。湿度は飲水・呼気・糞等から補給されどうしても高湿度状態になりやすいので特に加湿はしていない
病鳥の管理はここに書きました栄養補給・保温・治療法の選択が最も大切で、獣医師による治療が的確に行われても、食欲が不振で、寒冷な環境では到底満足な治療は望めません。 ここにわれわれ動物看護士の手厚い看護が要求されています。
保温ですが、新生児用哺育器が使いよいのですが、温度計で確認することが最も大切です。 赤外線ランプで一カ所暖かいところを作って、病鳥に選択させるのも良い方法です。この時はケージの中に温度勾配を作ることが大切で、タオルでケージを包みこんだり、密閉しないことが大切です。 わら製のフゴも冬季の保温道具としては使いよく出来ています。この中か、下に発熱カイロを張り付けて保温することもできます。
(イエスズメの環境温度と呼吸数の表) この表はスズメを色々の気温の所に置いた時に呼吸数がどう変化したかを観察したものです。 まわりが寒くなるほど、呼吸数が増加します。これは体温を維持しようとして筋肉が震え、その為の酸素が必要で呼吸数が増えたものと考えられます。これとは逆に30℃を越えますと、急速に呼吸数が増えます。換気による水分の蒸散によってその気化熱で体温を下げようとしているものと考えられます。すなわち、29から30℃が酸素を最も消費しないで生活出来る最適温度といえます。
2栄養補給
不断の栄養補給が鳥の治療の際には必須である。診断にたどり着いて治療方針が決定して治療を開始出来ても、食欲廃絶している症例で、栄養補給がうまくできない時は治療効果は期待できない。経口投与はせいぜい1~2kcal/mlであるが、他の経路に比較して最大のカロリー補給が可能である。しかし神経麻痺や虚脱によって咽喉頭の麻痺があったり、舌運動が完全でないときは誤嚥の危険があるので経口投与はしない方が良い。例えば重度のソノウ炎で嘔吐が頻発する症例では、早期に制吐効果が現れない限り、経口投与でカロリー補給できないので救命の困難な疾患である。
穀物食の食性を示す鳥(セキセイインコ、ブンチョウ、オカメインコ、ボタンインコ、カナリアではRoudybush社のフォーミュラー3が経口投与剤として、演者らは好んで用いている。ソフトクリームが溶けた程度の濃さに溶いたものは確実な回復を示す症例にちょうど良い濃度であるが、かなり衰弱した症例ではこの濃度では食滞を起こす傾向がある。少し温湯を加えて更に流動性を持たせた方が良い。これら流動食は3~4時間ごとに与える。5フレンジの新生児用経鼻カテーテルを5cmの長さに切り、2~5mlの注射筒に接続したものを用意する。これに上記の流動食を取り、ソノウ底まで静かに差し込んでゆっくり注入する。この際の鳥の保定は極めて重要で習熟する必要がある。もし、注入途中で流動食が逆流してきたときは直ちにカテーテルを抜去するとともに、鳥を放す。そうすることで鳥は頚を振って口内の液体を排除して誤嚥することはない。もし一人が保定し、一人がカテーテル操作をするときは、逆流の際の行動を打ち合わせておくと良い。
セキセイインコの例です。
カテーテルはソノウ底まで深く挿入します。
クリップでも代用できます。
投与前にはソノウ内に前回のものが滞留していないか触診で確かめる。滞留のあるときは獣医師に報告し、指示を受ける。
3酸素吸入法
持続的な酸素吸入を必要とする症例は呼吸困難を示す場合と極度の貧血がある場合がある。鳥の呼吸困難は肺炎以外に、腹水あるいは腹部腫瘍などで後部気嚢の拡張が阻害されたときに発生する。
呼吸困難の症状
呼吸筋以外の筋肉まで動員して換気量を増やそうとする努力性呼吸を言う。
1開嘴呼吸
嘴を開いたまま呼吸したり、あるいは呼吸に一致して嘴を開閉する。
2尾翼呼吸
尾翼が呼吸に一致して上下する。
3総排泄孔呼吸
総排泄孔が呼吸に一致して前後の動く。
4肩呼吸
翼が呼吸に一致して上下する。
5前部気嚢が呼気時に異常に膨張する。
6チアノーゼ
ブンチョウでは嘴の色はその鳥の血液の色である。そのため呼吸困難では紫色になる。またその他の鳥では脚が青紫色になる場合がある。
7ラッセル
呼吸に一致して、プチプチという痰が気管内で振動する音が聞こえる。
呼吸困難の症状を正確に把握し、保定時の不測の事態を招かないように注意する。
酸素吸入法 60%以上の酸素を持続的に吸入する。使い捨てカイロなどの発熱物質はケージから取り除く。
1インキュベーターの酸素注入口からに毎分3リットル以上の酸素を流す。これは無駄が多いので通常は短時間に限られる。
2ケージに鳥を収容し、これを透明のビニール袋に入れて酸素を充填し、ビニールの口を縛り、30℃のインキュベーター内に収容する。この酸素テントは一日二回酸素を入れ替える。
透明のポリエチレン製のゴミ袋が酸素テントとして便利で、ケージごとこの中に入れて、酸素を注入する。
1日の看護の流れ
朝9時
糞の数、量、鳥の行動の観察と記録、ケージ清掃、餌・水の点検交換。
酸素テントの酸素入れ替え、流動食の強制投与。獣医師による注射その他の治療
昼13時
流動食の強制投与。術後の経過(麻酔の覚醒度合い、出血の有無)の観察。
夕17時
糞の数、量、鳥の行動の観察と記録、ケージ清掃、餌・水の点検交換。
酸素テントの酸素入れ替え、流動食の強制投与。獣医師による注射その他の治療
夜20時
流動食の強制投与。術後の経過(麻酔の覚醒度合い、出血の有無)の観察。
朝の行動観察は特に大切である。
1前日まで呼吸困難を示していなかった鳥が種々の呼吸困難の症状を示しているかも知れない。そんなときは鳥に触れる前に獣医師に連絡して、指示を受けなければならない。呼吸困難の程度によってはケージを替える為に触っただけで急死する事がある。
2回復傾向を示さない症例、糞性状の悪い症例(尿あるいは飢餓糞のみの排泄)も獣医師に連絡して、指示を受ける。
ズダンⅢによって、脂肪滴が赤く染まる。
3朝に採取した糞便は顕微鏡下でデンプンおよび脂肪の有無を検査する。強制経口投与された流動食が充分消化されているか点検する。糞便中にデンプンは透明な不正形の等高線を描く粒子として見える。ルゴール液を混和してヨードデンプン反応で確認する。糞便中の脂肪は焦点が手前で、浮き上がって均質な球形に見え、ズダン�で赤く染色される。これら不消化が確認されたなら、獣医師に連絡する。通常は総合的な消化剤が処方される。当院ではセブンEPを好んで用いている。通常の処方は流動食10ml 当たり1/4カプセル混和して強制投与する。