○児森 甘奈、川畑 貴世実 (中津動物病院)
はじめに
大阪府では府民が発見した傷病野生鳥獣(ケガや病気で衰弱した野生の鳥類や哺乳類)は知事指定の約130名の開業獣医師(救護ドクター)へ運び込まれます。救護ドクターのもとでは治療だけでなく、給餌やリハビリまで行って野生復帰させています。治療が奏功して、飛行能力が充分であれば、すぐに放鳥出来ます。しかし翼を怪我した鳥や、体重の減少した鳥はしばらくヒトの保護下で飛行練習など野生復帰に向けた体力作りをする必要があります。この過程を鳥獣保護に理解のあるボランティアに依頼しょうという制度が2000年度よりスタートしました。この制度を傷病野生鳥獣保護飼養ボランティア制度と呼んでいます。中津動物病院ではこのボランティアを養成する講座も開催しています。
救護ドクターのステッカーです。
このマークあるの動物病院で診察を受けて下さい。
講習会の様子です。
1入院した野鳥の種類
中津動物病院は人口密集地帯の中にあり、周囲も緑も少ない環境でありながら、年々持ち込まれる野鳥が増えて、昨年度は大阪府で保護される鳥の約20%、100頭に昇りました。多い順にスズメ、ドバト、ムクドリ、ヒヨドリ、キジバト、ツバメ が10頭以上でした。その他の鳥は1~2頭で、メボソムシクイ、ハヤブサ、フクロウ、カラス、カイツブリ、ユリカモメ、チュウダイサギ、ヒワ、ゴイサギ,トビ、センダイムシクイでした。
しかしタヌキ、シカ等の野生の獣はこの10年間で一頭もありません。
野生鳥が病院に連れて来られると、
a 保護した場所、時間、保護時の野鳥の様子を詳細に尋ねて所定のカルテに記入します。
これが大阪府規定の診療報告書です。これに記入して行きます。
b保護した人が引き続き飼養してもらえる時以外は全て入院治療になります。
c 鳥の種類の同定 それで食性が分かります。
d 獣医師の診察を受けて、治療が必要であれば投薬等の指示があります。
e 野鳥においても、治療・看護の原則は変わりません。
野鳥においても、治療・看護の原則は変わりません。
保温・栄養補給・的確な治療 この3項目のどれが欠けても満足な回復は望めません。
イ 保温 羽根を立てて膨らませているなど、悪寒を示し、体温が維持できていないときは30℃に保温します。
ロ 栄養補給 高体温(42℃)を維持するために不断の採餌、給餌が必要です。食欲を示さない時は、新生児用経鼻カテーテルの5~8フレンジのものを鳥の首の長さに合わせて4~15cmに切って3~10mlの注射筒に結わえ付けて強制的に経口投与します。流動食の調整はその鳥の食性に合わせます。あるいは九官鳥用の固形飼料、ミルワーム、セキセイインコ用配合飼料、小松菜、牡蠣粉、BPDs,熟した柿、ミカン等その鳥の衰弱度や発育程度、食性に合わせて調合します。
a 穀物食ではフォミュラー3を約3倍の温湯で溶きます。衰弱の激しい鳥ほど薄いものから始めるとソノウでの食滞は軽減することが分かっています。開口して餌をねだる巣内ヒナには脱穀した配合飼料またはムキアワを温湯でふやかして、これに青菜(コマツナ,カブの葉)の摺ったものを半分混ぜる。約40℃の暖めて、与えるときにボレイ粉を5%程度振りかけて与える。これにフォミュラー3を添加しても良い。日齢が浅いほど高い温度で食欲を示します。
b 食虫食ではミルワームを口内深く押し込んで与えるか、ニュートリカルをそのまま注射筒に取って与えます。市販のミルワームにでんぷん質の食べ物(ふかしたカボチャ、ジャガイモ、あるいは水で軟らかくしたドッグフード)を与えると、ミルワームを経由して食虫性の鳥にでんぷん質を給与出来ます。
c 魚食ではワカサギ、イワシあるいはキビナゴなど小型の魚を頭の方から口内深く押し込んで与えます。このあと首を包帯でリボンのようにくくって、吐出するのを防ぎます。
d ネクター食.・花密食の食性を示す鳥(メジロ・ヒヨドリ等)は熟して軟らかくなった果実を与えます。あるいは果汁を絞ったり、缶ジュースを与えても良いでしょう。ミカンを輪切りにしてもつついて食べます。ヒヨドリには九官鳥の固形飼料も与えやすいです。ヒナの時は20%位の動物性飼料が必要でミルワームを与えます。
種類の同定は口の粘膜の色で判ることがあります。
カワラヒワはあずき色
ムクドリは黄色
ヒヨドリは赤
ツバメです。
巣立ちビナとは巣立った直後のヒナで、親から採餌や社会化の訓練を受けている若鳥を言います。 食性が合っていることが大切です。 給餌は自然界と合わせて、日の出から日没までとします。しかし衰弱の激しい症例では夜間も給餌します。
ハ 安全な治療・投薬
安全な治療・投薬は獣医師が決定することですが、入院までにどんな治療をしているのかよく理解しておく必要があります。特に呼吸困難の症状を示す鳥では安易に保定することは極めて危険です。ケージを交換するときは呼吸困難の症状があるのかを詳細に観察して、あれば獣医師の指示を受けます。
呼吸困難の症状
1 開嘴呼吸:嘴を開いて吸気し,激しいときは舌も突き上げるように伸ばして少しでも多くの空気を吸い込もうとする。
2 肩呼吸:吸気時に肩が下がり、呼気時に肩が上がる。
3 総排泄孔呼吸:呼吸で総排泄孔が激しく揺れる。
4 尾翼呼吸:吸気時に尾翼を押し下げるようにする。
これらはいずれも体のあらゆる筋肉を動員して少しでも換気量を増やそうとする努力性の呼吸です。
5 健康なブンチョウの嘴の鮮紅色はそのブンチョウのもつ血液が透視して見えるためで、呼吸困難を示すブンチョウでは暗紫色で、いわゆるチアノーゼが観察できます。こんな時は脚も暗紫色に見えます。
6 呼吸に一致してプチ、プチという音が聞こえることがあります。これは気管内の分泌物(喀痰)が空気の流れで振動するために発する音で、ラッセルとも言われます。このラッセルも危険サインで、入院中に初めて気づいた時は獣医師の指示を受けます。
酸素化
通常酸素化という治療が呼吸困難の鳥での最初の治療です。これはビニール袋に病鳥のケージを入れ、純酸素を充填して60%以上の酸素濃度にして、30分間待ちます。こうして充分酸素を吸入すると中には今までの呼吸困難の症状が軽減する症例があります。こんな時はケージの交換,清掃、注射や強制給餌のための保定が短時間なら可能になります。
しかし、酸素化後も症状の改善が全く見られないときは極めて重篤な病状で獣医師にすべての事を任せた方がよいでしょう。
栄養補給量
全ての動物の一日の基礎代謝量は次の式で表されます。
基礎代謝量kcal=K×(体重)3/4
Kはエネルギー係数でスズメ程度の体重50g前後の鳥にはK=256,それより重く200gを越えるものにはK=156が適応されます。
この係数を用いて基礎代謝量をコンピューターに計算させますと次のようになります。
体重30g・・・・9.29kcal, 40g・・・・11.53kcal, 50g・・・・13.64kcal,
60g・・・・15.63kcal, 100g・・・・22.93kcal, 200g・・・・23.41kcal,
300g・・・・31.73kcal, 400g・・・・39.38kcal, 500g ・・・・46.55kcal.
1kg・・・・78.30kcal, 1.5kg・・・・106.12kcal,
基礎代謝量は呼吸・消化・循環など生命維持に必要な最低のエネルギーで、この同量が健康体を維持する為の活動エネルギーとして必要です。病気の鳥では更に病気にうち勝つためのエネルギーも必要でその量は基礎代謝の50%であろうと推察されています。更にヒナ鳥は成長のために健康な鳥のi.5~3.0倍のエネルギーを必要としています。すなわち次のようになります。
健康な鳥の必要カロリー=基礎代謝量×2
病鳥の必要カロリー =維持代謝量×1.5
次に実際の症例で計算を試みてみますと、体重30gのセキセイインコのヒナはどれくらいのカロリーを補給すれば良いのでしょうか。
先ほどの計算表から、体重30gの鳥の基礎代謝量は9.29kcalです。維持代謝量は2倍ですから、9.29×2=18.58kcalになります。このヒナ鳥の一日の必要カロリーは18.6×1.5=27.9kcalですから、フォーミュラー3で補給するとすればフォミュラー3は3550kcal/kgですから、約7.9gのフォーミュラー3を与えれば良いことになります。このフォーミュラー3は3倍以上の水で溶かないと適当な流動性が得られませんので、投与総量は7.9×3=23.7mlとなり ます。ここで重要なことは体重30gのヒナ鳥には最低でも体重80%の流動食が必要と言う事です。いちいち症例に合わせて計算しなくてもヒナ鳥についてはほぼ体重量80%を与えれば良いという事になります。一日8回与えるとすると、3時間おきに3.5mlとなる訳です。幸いこの頃のヒナは大きなソノウ容積を持っていてこれくらいは投与可能です。ヒナ鳥の強制給餌には、表現としては“これでもか”というくらい与える必要がある事を意味しています。嘔吐を示すヒナ鳥は一刻も早く治療効果が出て、嘔吐が止まり、栄養補給が確実に出来るようでないと、体重の減少は免れません。従って嘔吐を伴うソノウ炎は治療しにくい疾患といえます。
○1gのフォーミュラー3を流動状態にするには3mlの水を加えないといけない。しかし出来上がった流動状態の餌の容積は約3mlに近く、それほど増量しません。
一度に沢山集める方法ですが。 このようにティシュペーパーの上に広げて、
おがくずを元のケースに戻します。
そうしますと、一度に沢山のミルワームを確保できます。
魚食性の鳥にはイワシやワカサギを与えます。チュウシャクシギにイワシを与えています。
ササゴイの給餌後、吐き戻さないように、クビにリボンを巻いているところです。