野鳥救護の実際

http://nakatsuvet.sakura.ne.jp/yasei.pdf  野鳥救護の実際 -スライド

野鳥救護の実際野生動物救護獣医師協会(WRV-J)大阪支部長
獣医師・獣医学博士 中津 賞
(大阪府堺市・中津動物病院)

野生動物救護の目的は野生動物保護管理と野生動物救護に大きく分けられる。
1野生動物保護管理
a,ヒトの社会活動を保障するために被害を少なくする。いいかえれば増加しすぎた動
物による被害を減らす、そのために生息数を減少させる。この良い例が、カラス(東
京都)、ドバト、シカ、イノシシに見られる。
b,生息数が減少している動物、あるいは絶滅の危機にある動物については数を増やす
努力をする。トキ(佐渡)、コウノトリ(兵庫県)、タンチョウ(北海道)について懸命の
努力が続けられている。
2野生動物救護
a,ヒトが関与した事柄で負傷した動物(人災)を救護する。換言すれば、ヒトが自然に
かけた迷惑を補償しようとする救護。ヒトがこの地球上に居なかったら、起こらなかっ
た出来事を修復する。例えば、大気汚染、重油汚染、環境汚染、干潟の埋め立て等に
よる被害鳥獣を救護して野生復帰を図る。
しかし、ヒトの目に留まる傷病鳥獣はごく一部に過ぎないことを認識する必要がある。
1頭の傷病鳥獣の発見はその背後に数百、数千の被害鳥獣が存在するかもしれない。
 単に救護して、健康を回復したからと、野生復帰できたと短絡に考えることなく、
救護活動を通じて次の様な使命の達成を成し遂げることが肝要である。救護活動には
臨床的救護活動と救護活動を通じて教育文化活動の普及を図る、二つの使命がある。
●臨床的救護活動
1,根幹をなすのが、 救護ドクター制度、里親ボランティア制度を活用し、傷病鳥獣
を治療して、野生復帰を図る。
2,救護原因を究明して、予防措置を取る。
救護カルテを分析して、事故多発地点の発見と対策を講じる。
3環境をモニターする機能。
死亡個体の重金属、化学物質の体内蓄積状況を把握する。健康に障害を引き起こす物
質について、食物連鎖による濃縮の経過を知り、ヒトや動物の健康維持に役立てる。
4絶滅が危惧される動物を救護し、増殖を図る。
トキ、イヌワシ、ヤンバルクイナ等、各種動物の減数の原因を究明して対策を立てる。
とくにヤンバルクイナでは、マングースによる捕殺と、交通事故による犠牲が二大原
因と言われている。
●救護活動を通じて教育文化活動の普及を図る。
救護活動を体験する側面から、野生動物の愛護の精神や文化を育てる。
5命を大切にする教育や文化を育てる。
矢ガモ事件等の動物の虐待は次々と発生している。
6環境教育や専門研修を実施する。
タンカー事故による石油の海鳥の被害は毎年の様に起こっている。この救護には多数
のボランティアが必要で、油汚染海鳥の救護技術を持ったボランティアの養成が、油
汚染海鳥救護技術講習会として各地で開催されている。当院では毎年、この油汚染海
鳥救護技術ボランティア養成養成講座を開催して、修了者は大阪地区で既に500名
を超えている。
7野生動物に関する情報を市民に公開し、救護活動に興味のある市民が参加するネイ
チャースクールの開催等を通じて、市民参加や市民協働を推進する。
8野生動物保護に関わる情報を提供し、また必要な助言を行う。→多数の同じ原因で
負傷する動物が出る場合、その発生場所での検証を実施して、原因を究明する。そし
て、橋の新設、道路建設時の構造、のり面の植える植生についても情報の提供および
助言をする。野生動物の事故原因
1 食物連鎖の中で、他の動物に襲われる。これは自然現象の1つで、看過するのが
望ましい。
2ガラス張りの建物に衝突する。釣り糸に絡まる。巣立ちビナを誘拐する。など、ヒ
トが直接、間接に危害を加える。
 負傷動物と出会った時、自然の仕組みの中で起こったのか、ヒトが関与して起こっ
たのか区別は困難なときが多いが、自然に関心を持つことで、次第に正しい判断がで
きる。
 野生動物は自然の世界で生きて行くことが一番幸せであるので、一刻も早い野生復
帰を図る。野生復帰できない負傷動物は安楽死される。野生動物救護の最終目標は、
自然に戻された個体が繁殖に参加して、次世代を残すことである。目標に到達できな
い障害を受けた野生動物は、あえて自然に戻し、食物連鎖の中に置くのも、野生動物
救護獣医師のとるべき道の一つと考えている。ペットを治療する獣医師とは明らかに
異なる立場に身を置かなければならない。例えば、すべてのヒナが成鳥になれるわけ
ではない。今、1組の親鳥が年間2回、それぞれ5羽ずつヒナを育てた。これを3年
間続けた。結局、この親鳥は合計30羽のヒナを育てた。この内、2羽が繁殖に参加
できれば、自然界の生息数は変わらない。いいかえれば、残り28羽の鳥は繁殖まで
到達できなかったことを意味している。まさに、自然に完全に適応した個体だけが生
き残る機会を得ていることになる。
 ヒナには、巣内で親鳥の養育を受けている巣内ビナと巣立ちして、親から社会化を
受けている巣立ちビナに分けられている。巣内ビナはこの時期は巣から落ちると親は
育てない。巣から落ちることは死を意味している。そのため、巣に必死でしがみつい
ている。やがて、成長とともに、ある時、巣を離れて、親鳥と行動を共にする巣立ち
ビナとなる。今まで握って離さなかった巣材を,離さないと巣立ちできない。すなわ
ち、心理的な飛躍が巣立ち時には起こる。それ故に、当初は飛べなくて当然である。
 ヒナ鳥は巣立ちすると、親鳥と行動を共にして、生活の知恵を伝授される。その中
にはヒト、鳥、動物、気候の変化等の危険からの回避方法、餌の取り方、餌のある場
所見つけ方。食べて良いものと悪いものの判断。
他の仲間との付き合い方等が伝授される。このような生活の知恵を身につけることを
ヒナ鳥の社会化という。この時期にヒトが保護してしまうと、これらの経験が全くな
くなる。いいかえれば、回復後、放鳥しても、たちまち
餓死するか、捕食されることとなり、救護の目的が達せられない。
親鳥は決して見捨ててはいないで、必ず近くに居て、ヒトが立ち去るのを見守ってい
る。この状況で、野鳥を捕らえることは、小さな親切のつもりでも、大きな迷惑であ
る。
大阪府に置ける保護理由の1/3がこの時期のもので、これは誘拐と呼ばれている。飛
べない野鳥を見つけたら犬や猫に襲われないように近くの木の枝に止まらせて、その
場を急いで立ち去るようにする。次の日、その場所にまだ居るようなら保護すること
も一つの手段である。 巣ごと落ちてしまった時には、元の場所に戻すことが大切である。ツバメの巣が巣
が壊れたときにはカップラーメンの器が最適である。ワラや紙を細かく切って巣材に
して、ヒナを入れ、ガムテープで元の所に固定する。壁に密着させなくても良い。元
の場所から少しくらい離れても親は給餌する。
雨がかかる場所では器の底に穴を開けておくと良い。後は、親鳥に任せる。
 キジバトの場合、キジバトの巣は本来粗雑に作られている。浅めの竹製のザルにヒ
ナを入れ、同じ場所か、近くの枝に固定する。野鳥の営巣に気づかずに剪定した場合
には、巣を含む周囲の枝ごと、なるべく近くの木に縛り付ける。以上のように巣を移
動したり、変化を加えても、巣に居るヒナには親鳥は非常な執着と愛情を示し、給餌
を続ける。卵の状態では巣を放棄してしまうことが多い。人工孵化は無理。
 
 保護すると何が起こるかを考えてみる。
一旦親元から切り離した巣立ちビナは数時間経過すると、親子の関係が切れてしまう。
時々刻々成長するヒナはその成長に伴って、鳴き声の周波数、波形、振幅が変化する。
親子の接触に時間的空白ができると、親は自分の子と認識できない。そうすると、餌
を与えに来ない 保護・収容時の世話
親鳥は日の出から日没までヒナ鳥に餌を運び続けている。あなたは10分毎に餌を与
え続けられますか。そうでないと、給餌の量の絶対的不足(量の問題)に陥ります。あ
なたは多様な餌を用意できますか。そうでないと、給餌内容が劣悪(質の問題)になる
ます。その結果、体格が小さい、体質が虚弱なヒナとなってしまいます。
 こうした結果、ヒトが育てたヒナの体格は、親が育てた場合のおおよそ80%程度
しかならない。巣内ビナでは29~30℃に保温を継続する必要がある。清潔な環境
を維持し、この世話はおおよそ3週間から4週間必要である。
 自然界で生きる厳しさ
自然界では完全な能力がないと、餌も取れないし、外敵からも逃れられない。羽根一
枚の欠損が飛行能力の低下となり、命取りになりかねない。ビタミン・蛋白が不足す
ると、敏捷性が欠落し、自然ではすぐに生活に行き詰まる。すなわち、採餌出来ない。
捕食される。死しか残されていない状態になってしまう。
●発見者および搬入者に対しての指導
傷病鳥獣を発見したとの連絡があった場合
野生鳥獣がどのような状態の時に保護すればよいかを説明する。発見者および搬入者
は何が何でも早く保護しなければと思いがちだが、保護・救護することが彼等を救う
ことにならないということを教育/説明する必要がある。
 野生鳥獣はある程度のケガや病気であれば自然に回復する力を持っている。一度保
護飼養されると、野生に復帰することが困難になる。大量の出血、明らかな外傷、骨
折のために枝に止まれない、飛行できないということがない限り、すぐに保護せずに、
近くの枝に止まらせて、遠く離れて様子をみるのもよい方法である。ガラス窓への衝
突の様に、外傷が軽度で出血が少量であれば、ダンボール箱に収容し、25℃に保って
数時間安静にしておくだけで、飛べるくらいまで回復する個体も多い。看護の要点
a 呼吸困難,出血の有無の判定。
最初にチェックするのが呼吸困難と出血の有無で身体検査に先立って行われるべき
で、呼吸困難への対処が最優先される。下顎を引くようにクチバシを開け舌を突き出
して鳴き声と共に換気しようとする時は最も激しい呼吸困難である。
 出血では部位を見付け出し指による圧迫止血法または止血用クィックストップの粉
を用いた化学的止血法を実施する。傷口が大きければ、焼烙法による止血処置または
縫合が必要になる。
b 身体検査:鳥が暴れないようにタオル等で保定し、 外傷の程度や体に付着してい
る排泄物や寄生虫などを調べる。その際、鳥獣の体温を奪わないように軍手やタオル
などを用意して行う。また聴診器を使って心臓や肺などの内臓機能を調べる。鳥類で
は心肺の聴診は左右の肩甲部間で行う。外貌上異常がないか。詳細に視診する。とく
に出血あるいは骨折の有無。つぎに胸郭前部のソノウ内容の有無、大胸筋の発達具合、
腹部の触診へと移る。
c 体重、体温測定。
 体重は鳥獣の体調や餌の分量などを知る大きな手がかりとなる。
直腸温を通常の体温計で測定。多くは40℃~42℃である。低体温に陥っているときは、
急速な加温は極力避け、徐々に温めることが大切である。ドライヤーで温めないで、
新生児用哺育器(インファント・インキュベーター)に収容して、30℃に保つ。湿度の
調節ができるのであれば60%程度を維持する。d  触診の仕方と要点:触診は極力短時間で終わる様に心がける。次の三点を確認す
る。
1 ソノウの内容の有無:餌を取れていたのかが判る。
2 大胸筋の発達具合:筋が萎縮していなければ、捕獲されるまでは栄養はよく保
たれていたことを示している。筋萎縮が激しい時は一ヶ月以上に渡って消耗性に経過
していたことを示している。
3 腹部の触診:小さな腹部が健康な鳥の所見で、大きいことは産卵期のメス鳥を
除いて、すべて腹腔内臓器の肥大、腫瘍、腹水の存在を示す異常所見である。 看護の要点
ヒナの養育には、以上の様な不断の熱心な世話が求められる。しかし、ヒトに慣れな
いように注意する必要がある。実際には一番難しい。偽装も一手段である。現実の野
外においては、ヒトとの接触が最も危険である。しかし保護下では、この危険回避の
訓練が出来ない。野鳥救護の大原則は野鳥は野生に帰すことである。そのため、でき
るだけ短期間の保護に留め、早期に放鳥
が基本である。
 鳥にしてはならない治療行為
1 軟膏(ワセリン)類を塗る
羽毛が生えていないクチバシ、眼の周囲、趾、中足部(種類によってはこの部も羽毛
で覆われる)に、ごく少量塗布することはある。しかし、羽毛には使用禁忌である。
軟膏中のワセリンによって、羽毛内の空気層が喪失し、羽毛の保温機能を著しく損ね
る。また、皮膚呼吸を妨げる。洗剤を使った洗浄以外には極めて除去しにくい。大量
では鳥を著しく衰弱させる。すなわち鳥での軟膏使用は重油汚染に匹敵する医原性汚
染である。
2 口内に液体を滴下しない。
スズメ、メジロ、ヒワ、ムクドリ、ヒヨドリ等の鳴禽類の嘴の短かい鳥では、口内に
液体を滴下すれば、舌の基部に開口する気管に吸い込まれて、簡単に誤嚥を起こし、
肺炎に移行する危険が大きい。そのため、ソノウ底まで届くカテーテルを挿入して、
ソノウ内に送り込むと安全である。
嘴の長い鳥(カワセミ、サギ,バン)では嘴の先端に付けるようにして与え、舌の動き
によって、自発的に飲み込ませると危険は少ない。 実際の保護は、その鳥の成長段階によって、巣内ビナの保護、巣立ちビナ(若鳥)の
保護、成鳥の保護に分けて考える必要がある。
1 巣内ビナの保護:巣立ち前のヒナを巣内ビナと呼んでいる。
早生性のヒナは2~3日間のみ巣に留まる。例えば、カモ、キジ、ツルのヒナは兄弟全
部が孵化すると、数日で巣を離れ、親と行動を共にして発育する。
晩成性のヒナは、多くの鳥はこの仲間で、赤裸で孵化する。3週間以上親鳥の養育を
受ける。巣にヒナが留まっている限り、親鳥は熱心な世話を続ける。しかし、誤って
巣から離脱すると、もはや親は餌を与えない。巣から落ちる理由としては、脚あるい
は趾の変形等の奇形を持っている例は多い。
兄弟間の生存競争に破れたり、吸血性のダニ(ワクモ)が寄生している場合も巣から落
ちてしまう。晩成性のヒナは巣に留まることが大前提で、落ちることが想定されてい
ないので、極めて落下の衝撃には弱い。
 落ちるとどんなことが起こるかを考えてみると、内出血、骨折、皮下気腫、内臓打
撲が起こる。打撲による障害は短時間には現れないこともあり、数日を経て、死亡す
ることも多い。1メートル以上の落差には通常耐えられない。看護中に誤って落下さ
せることのない様に細心の注意が要求される。また、巣内ビナは、親鳥の体温で加温
されているので、冬季では短時間のうちに体温の低下を来す。親鳥は巣から離れたヒ
ナには給餌しないので、餌が欠乏し、やがて餓死する。早生ビナの保護
発見した巣内ビナは飛行や、移動ができず、必ず近くに巣があるはずで、巣を発見で
きれば巣に戻すことを最初にしなければならない。ヒトが触っても親鳥は気にしない
で世話を続けることが知られている。孵化したヒナの対する親鳥の愛着は強いのが普
通である。巣内ビナの保護
すべての病鳥に共通する看護の基本である保温/給餌/加療がそれぞれ継続されるこ
とで、保護された鳥の回復が期待できる。この三つのうち、どれが欠けても成功しな
い。
1 保温 
夏季を除いて,巣内ビナは常に加温は必要で、使い捨てカイロ、ヒヨコ電球、ペット
ボトルで湯たんぽ、赤外線ランプ、電気カーペット、あるいは未熟児用哺育器(イン
キュベーター)を使用して、目標温度29~30℃に保たれる様に、温度計で測定し
ておく必要がある。
2 保温の不十分の場合の症状(低体温のヒナの症状):
a 羽毛の生えていないヒナでは皮膚が黒っぽく見え、触ると冷たく感じる。
b 見かけ上、小さな眼をしている。これは眼球を取り巻く眼窩内の組織の脱水を示
している。
c 餌が未消化のまま排泄される。
d 体重が増えない。あるいは成長が止まる。
3 加温し過ぎの場合:
1羽毛を体にぴったり付けている。
2脇を拡げて、口を開けてあえいでいる。
気温を確認し、うちわで扇いだり、保温用具を取り去る。 野鳥の同定
看護の情報として、保護した鳥の習性と食性を知りことは重要である。まず、その鳥
の名前を知ることが重要で、この作業を同定と言う。日本の野鳥(日本野鳥の会 発
行)に簡潔の述べられているが、参考になる。保護頻度の高いヒヨドリとムクドリは、
そのヒナの大きさはスズメよりやや大きいが、酷似している。前者が、ネクター食
性(熟柿の様な柔らかい果実食性)なのに対して、後者は昆虫食性である。その鑑別点
は口内粘膜の色が前者ではピンク色であるのに対して、後者は黄色である。
 その他のよく保護される鳥の食性は次の通りである。ワシ、タカ、フクロウは獣肉
食性、サギ、ウミガモ類、カワセミは魚食性、スズメ、カワラヒワ、シメ、キジは穀
物食性、メジロ、ヒヨドリは果実食性、ムクドリ、ムシクイは昆虫食性、ユリカモメ、
カラスは雑食性である。餌の準備
 穀物食性の鳥、例えばスズメ、ヒワ、シメ等の穀物食性を示す早生性のヒナが食欲
を示す時。
1 ムキアワを熱湯で10分間浸漬して充分にふやかす。
2 コマツナを摺ったものと1:1に混ぜる。
3 ボレイ粉をこれに5%位混ぜる。
体温程度まで加温して、ソダテオヤ(プラスチック製給餌器)かサジあるいは竹ベラで
口内に入れる。そして出来るだけ頻回与える。激しく成長する負荷後2~3週間目に
は動物性蛋白も必要で、ミルワームを全給与量の20%間で与えると良好な発育を示す。
 穀物食性の鳥の流動食
フォームミュラー3が適している。三倍の温湯で溶いて、カテーテルで与える。カテー
テル先端はソノウ底まで入れる。安全に挿入するには完全な保定が要求される、その
ため、練習が必要で確実な保定と投与技術の修得が必須である。
 穀物食性の鳥のうち、晩生性のキジのヒナにはニワトリ初生ビナ用配合飼料を主食
とすることで、良好な発育が期待できる。この時、コンコンと餌箱を鉛筆の先でつつ
いて振動させると食欲を示す。食欲を示さない時はフォミュラー3を溶いて経口投与
する。キジの成鳥が食欲を示さない時はカテーテルは、5Fr新生児用経鼻カテーテル
あるいはシリコンチューブを注射等接続したものを用いられる。カテーテルの長さは
嘴~胸郭前縁までとする。その他の鳥でのカテーテルの長さはスズメで4cm、ドバ
ト10cmである。1日数回、点眼瓶に水を入れて、開口するヒナの口内深く注入してや
ると、よく飲む。
 流動食用カテーテルの口内への挿入法
1口角にカテーテルを当てると、反射的に開口する。
2クリップによる開口法。文房具のクリップを曲がったクチバシのトリに使用できる。
3COOK社製開口器
4爪楊枝による開口法。
 成鳥の給餌
鳴禽類ではフォーミュラー3が最適で、少しの水で溶いて、団子を作り、口内に押し
込むことができれば、栄養の過不足なしで、育てられる。ドバトの成鳥には九官鳥用
の固形飼料を1日に70粒与えられれば、体重の増加が見られる。フォミュラー3を
用いる場合には、一回に20mlを1日4回与えれば良い。その他の鳥では、食欲があ
ればヒエ、アワ、キビ、カナリアシード エゴマ,ナタネ、オノミ,ヒマワリ、麦等、
出来るだけ多種類の穀類を給餌する。ただし穀類にはビタミンAが含まれない。コマ
ツナ、ブロッコリー、ニンジン、ピーマン等の緑黄色野菜を充分に補給してビタミ
ンA不足に陥らない様にする。ビタミンA不足の指標としては、口内察過標本上に多量
の口内上皮細胞が見られることである。
 昆虫食性の鳥の給餌
ムクドリ、ムシクイ、セキレイ等の昆虫食性のトリにはミルワームを出来るだけ多く
与える。ミルワームは室温において、この虫自体に給餌すると、この虫を介して鳥に
栄養補給できる。ミルワームが好む餌は軟らかい殿粉質で、ふかしたジャガイモ、バ
ナナ、ドッグフードを良く食べて、大きな虫になる。これをトリに給餌することでト
リが本来食べない様なものも虫を通じて給与することができる。コオロギが観賞魚の
餌をとして市販されている。
コオロギはふかしたイモ、カボチャ、ドッグフード、バナナ、魚粉等を与えておくと、
長く生存する。
 ネクター食性の鳥 (果実食)のヒヨドリ、メジロの場合
食欲がない時:
みかん、リンゴ、カキ等の果実をすりつぶして、果汁をカテーテルで与える。ただし
これらのトリはソノウがよく発達していないので,一回量はせいぜい0.5mlである。
市販のローリー用固形飼料を溶かして経管投与することもできる。
食欲がある時:
ミカンを輪切りにしたもの、熟したカキやモモ。ローリー用ペレットあるいは九官鳥
用固形飼料、動物性蛋白源としてミルワームも時に与えると良い。
 魚食性の鳥の給餌
サギ類、海ガモ類、カイツブリ等で、
 食欲がない時:
ワカサギ、キビナゴ、イワシ、ハタハタを用い,以下の様に処理して与える。
1魚をすりつぶし、浮き袋、大きな骨を取り除く。同量のソリタ1号(ポカリスエット
でも可)を加えて流動状態にする。茶こしで漉して,20~50mlのカテーテル付き注射
筒に取り、胸郭中程までカテーテルを挿入して投与する。
弱っている鳥では,体温程度まで加温してから与える。頭をしばらく高く保持。
2魚をそのまま口内に押し込む場合には,頸部食道に留めないで、外側からしごいて、
その魚を胸郭内まで押し込む。こうすると吐出しない。
3ワカサギ、キビナゴ、小イワシは入手しやすいが、やや低カロリーの傾向ある。充
分な給餌にもかかわらず体重が減少するなら、脂肪の多いハタハタ、大型のイワシを
細切して、これらのものに添加すると良い。
 食欲を示す時:
ワカサギ等の尾びれを持ち,水中であたかも泳いでいる様な動きをさせて,鳥の食欲
を刺激すると良い。
 獣肉性の鳥の給餌
ワシ、タカ、フクロウ等の場合、鶏肉は避ける。動物用ワクチンには,伝染疾患の種
類によっては、病原体の感染は許すが、発症を抑えるものが使われている。マレック
病についても,この種のワクチンが使用されているため、ニワトリ自体は発症はしな
いが、日本の多くの鶏はマレック病ウイルスを保有している。野鳥に鶏肉を与えると、
発症する可能性あるので餌としては不適当である。これに代わって豚肉、他の獣肉・
内臓が勧められる。骨粉も必ず添加するのが望ましい。最近では、熱帯魚用の餌とし
て、冷凍のマウス、ラットも市販されているので,これを利用しても良い。野鳥のマ
レック病感染例としては、北海道のマガンに感染/死亡例がある。
 雑食性の鳥
 カラスのヒナ/成鳥、ユリカモメ等にはドッグフード、キャットフードが最適であ
る。食欲のないときは、処方食 a/dを温湯で溶いて、カテーテルで胸郭中程へ注入給
餌する。サギなど自由採食しにくい鳥に対する給餌法
(魚食性の鳥の強制給餌法)
○対象鳥数が数羽の時。
小さめの魚(イワシ、イカナゴ、ワカサギ、ドジョウなど)を頭から喉奥に押し込む。
この時一人は肩を保定し、給餌者は鳥の頸を伸ばすように頭部を保定する。嘴の基部
を横から押すと嘴を開くので、ピンセットで魚の頭をつかみ、のどに押し込む。さら
に食道部まで押し込んだら、外側から魚をしごいて、胸郭前部さらに胸郭内食道まで
押し込む。この部は小さな魚では数匹分の容積がある。嘔吐のある鳥では頸下部を包
帯で緩く締めておくと防げる。a ワカサギが最初の給餌食としては最適で、冷凍物が季節を問わず手に入る。ハタ
ハタでは脂分が多いのが、カロリー調整には便利で強制給餌に慣れた鳥からハタハタ
を混ぜて与えカロリー不足に陥らないようにする。
オオハムなど大型の鳥類 →そのままを、魚の頭のほうから、口内深く挿入する。
ウミスズメ ウトウ →細く短冊状に切ってあたえるワカサギより大きめの魚を与える
ときはその背鰭と尾鰭を取り除いておく。これで嘔吐時の消化管の外傷を防止できる。
強制給水も必要。○強制給餌の対象が多数ある時。
チューブで与えるほうがたくさんの鳥が収容されているときは数をこなせる。
餌の処理法
a ワカサギをミキサーまたはフードプロセッサーで粉砕する。浮き袋は粉砕されに
くので取り去る。さらにすり鉢で十分にすって液状にする。
ソリタ1号を水で2倍に希釈したものを同量加えて流動化する。
これを茶漉(細かいメッシュ)でこす。
20mlの注射筒に吸い上げて、温湯に浸けて、体温程度まで温かくしてから与える。
ネラトンカテーテルを食道内に挿入して、胸郭入口まで進め、静かに押 し出す。
胸郭内食道まで挿入できる技術があれば、リブケージの中ほどまでの長さのカテーテ
ルを用いる。
◆ 注射筒とカテーテルは糸でかならず縛っておく。浣腸用注射筒が内径が大きく詰
まりにくい。
◆ 保定者と給餌者はよく打ち合わせをしておいて、万一給餌中にこの餌が逆流した
時、 直ちに、カテーテルを抜き、手を離して鳥を自由にしてやると誤嚥を防げる。
ワカサギ単味の強制給餌を受け付けて吐き戻さない個体には後述のハタハタと混合し
た餌に切り替えて高カロリーのものをあたえる。ワカサギ単味では体重の増加はみら
れず減少することもある。容体の良いものでは最初から高カロリー食を与える。
◆ 500~600gのコサギでは50kcal/日は必要で、これを数回に分けて与える。流動状
態の餌はせいぜい1kcal/mlである。b a/d缶(Hill’s) を5%ブドウ糖または2倍希釈のリンゲル液で溶いて与えても
よい。ワカサギが手に入るまでのつなぎとして便利。一度茶こしでこしたものを与え
るとチューブをスムースに通る。ただし第一選択の食餌ではない。
c 嘔吐するときは5%ブドウ糖液でさらに2倍に希釈して与える。
参考資料1
◆ウミスズメ10羽当たりの流動食作成法(2回投与分)
ハタハタ切り身 200g
ワカサギ切り身 200g
ソリタT1号 70ml
5%ぶどう糖 70ml ミキサーで充分に流動化し、さらに茶こしで濾過
水 140ml
ポポンS    0.5 ml
ビオフェルミン 適量
 切り身とは頭・ヒレ・内蔵・尾・骨を除いてぶつ切りにした物で、アジ・イワシな
らば3枚におろして。一羽あたり 20~30mlをtube‐feedingし、一日四回(9:30、
12:00、15:30、18:30)冷蔵保存したものは必ず体温近くまで温めてから与える。参考資料2
1. 給餌魚の成分表(100gあたり) 1995年 女子栄養大学出版
        kcal    水分    蛋白   脂肪    糖質   灰分
イワシ      134     71.6 g    21.6   4.6   0.3   1.9
ハタハタ    113   78.6 14.1 5.7    0    1.4
アジ    144   72.8   18.7 6.9 1.5
ワカサギ   100 76.8 17.1 2.9 0.2   3.0
タラ 生   70   82.7 15.7 0.4 1.2
干    267     34.0 59.9 1.5   0   4.62 .水鳥における推奨されている強制給餌量
 体重      魚丸ごと 一日の給餌回数      一回の液体投与量
500 g以下    10~35g,6~7 5~15ml
0.4~1.6 kg   25~100 , 5~6 20~50
1.4~3.0 60~180, 4~5 40~60
3.0~5.0 180~369 ,4 100~200
一日の総投与量は体重の25~30%に相当する量を与える。
この他に水だけをさらに3回強制投与する。持続した強制給餌が必要
鳥は飛行のために常に高い代謝状態を維持し、高血圧、高血糖、高体温(40℃~42℃)
近い体温を保つために常に採餌し続けている。自力で採餌出来ない鳥は病死よりも、
飢餓死が断然多い。そのため、飢餓死を防ぐために持続的な強制給餌が必要である。
どの動物も、飢餓に備えて皮下や内臓周辺に脂肪が貯蔵されている。哺乳類の多くは、
飢餓時に水があれば、この貯蔵脂肪を燃焼して数日から数週間生きながらえることが
できる。しかし、鳥では、飢餓時に水があっても、口から全く栄養がとれないときは、
体内の貯蔵脂肪を利用できないと言われている。哺乳類にはない特殊な飢餓の病理と
見られる。そのため、体重を維持するのに充分なカロリーが強制補給できれば理想的
であるが、例え不足しても、短い間隔で経口投与ができれば餓死させずにすみ、治癒
に必要な時間を稼ぐことができる。保護中の管理の善し悪しのチェック
1 定期的な体重測定
 定時にgの単位まで測定して記録。
体重は同じか、少しずつ増加傾向の時は、管理がうまくいっている
2 大胸筋の発達具合の判定
 翼を引き下ろす大胸筋の発達具合はその鳥の栄養状態を良く反映している。1ヶ月
以上に渡り,必要なカロリーが摂取できないで生活してきた鳥では,大胸筋は著しく
萎縮している。これは筋肉蛋白を熱源として消費し、生命を保ってきた。その他の消
耗性疾患も同じ様に大胸筋の萎縮が著明で、尖った胸の触感を呈する。回復には数週
間の濃厚な看護と管理が必要である。○給餌内容の不適当による羽毛の変色
鳥の羽毛の発色は羽毛自体が色素を持つ場合と、羽毛表面の微細構造による光の干渉
で発色している場合がある。保護時間が数ヶ月あるいは換羽期を越えて、長引く場合、
栄養の不足から羽毛に色彩変化を生じて、野生では見られない色彩を呈することがあ
る。色素を含有する飼料の給餌不足、あるいアミノ酸不足による羽毛の微細構造の形
成不全が原因と考えられる。これらの羽毛の発色変化には白色化する場合と,黒色化
する場合がある。白色化はスズメ、ツバメ、カラスで,黒色化するものとしてはメジ
ロとスズメで見られた。保護下で与えられる餌は種類も限定され、自然界で調達され
るものとは比較にならないほど単調であると言える。したがって、フォーミュラー3
の様なオウム、インコ類の完全栄養食と言われる市販食や、エレンタールの様なヒト
用消化済みのすべての栄養成分を含む,いわゆる成分栄養剤を病院食に添加すること
で,これらの羽毛変色を予防できる。
 これらの明らかな羽毛の色彩変化に先立って、下尾筒あるいは尾翼の下面に横縞模
様が現れることがある。これはフェザーマークと呼ばれている。これはコリン・リジ
ン・などの必須アミノ酸の欠乏、リボフラビンの欠乏、肝障害あるいは甲状腺機能低
下を指摘する文献もある(文献10,11)。
 カナリアシードはリジンとメチオニンの含量が少ないが、アルギニンとトリプトファ
ンは豊富に含む。ヒエはトリプトファンを欠き、アワはアルギニンが少ない。従って配
合飼料は極力多種類の穀類から構成される必要がある。
 羽毛の色素が全く抜け落ちて部分的に白くなる羽毛色素欠乏症が知られている。オ
カメインコでは生長期のコリンとリボフラビンの不足に起因する。ニワトリ、七面鳥、
ウズラの黒っぽい羽毛を持つ品種で、リジン欠乏により同じく羽毛色素欠乏症を引き
起こす。しかしドバトやオカメインコではリジンが欠乏しても羽毛の白化はおこらな
い。しかし生長期が終わってからは例え各種アミノ酸が欠乏しても順調な換羽と羽毛
の輝きが見られる(文献5)。ヒヨドリとムクドリ
この2種類のヒナは保護される機会が多く、外観が酷似しているが、食性が異なるの
で、保護時点で鑑別する必要がある。ムクドリのヒナは口内粘膜の色が黄色で、ヒヨ
ドリのヒナはピンク色である。前者は昆虫食性で、保護下では、ミルワーム80%,九官
鳥用固形飼料20%の給与でよく成長する。ヒヨドリはネクター食性で、九官鳥用固形
飼料80%、ミルワーム20%で順調に生育するかに見えるが、突然に、握力が低下して
止まり木に留まることが出来ずに床に降りる。さらに、脚麻痺が起こって、起立さえ
出来なくなる。翼で体を支えようとするために、まもなく翼が湾曲し始める。発症後
はいかなる治療にも反応せず、予後は極めて悪い。病理組織学的所見は神経筋接合部
における伝達障害で、活性酸素の関与が示唆されている。当院ではそれまで発症を制
御できずに、年間数羽のヒナが本症を発症していたが、発症予防薬として、活性酸素
を不活化する抗酸化剤であるビタミンE(ユベラシロップ)とセレン(緑イ貝成分抽出製
剤)を飼料中に添加することで、発症を見ていない。セレンの添加はビタミンEの抗酸
化作用を増強すると言われており、両者の併用が効果的と思われる。放鳥基準として、行動観察、血液検査所見で、すべての要因が満たされる必要がある。
A行動観察所見
1自立採餌していること。体温が平熱で、よく維持されていること。
2自由な旋回、飛行後の息切れがない等、充分な飛行能力を備えていること。
3羽毛が汚れていないこと。羽根の損傷、欠損がないこと。
4羽繕いを頻繁に行っていること。羽毛の撥水性が維持されていること。
5平均的な体重を維持して、大胸筋が痩せていないこと。B血液検査所見
1赤血球容積比(ヘマトクリット値):30~50%
2総蛋白質量 :3~5g/dl
3血糖値   :180mg/dl以上
以上のすべてを満たすこと。フライケージ内での飛行訓練と採餌訓練
 放鳥に備えて、食物連鎖に組み込まれないで、自由な飛行と採餌をフライケージ内
でしばらく訓練出来れば、放鳥後の生存率を大幅に改善できる可能性がある。フライ
ケージ内には、自然な湧水か川、多種類の樹木、多種類の自然な形での餌の存在等が
あれば、理想的である。大規模なものが求められるが、今のところこのような設備は
皆無に等しい。
放鳥場所の選択
 同種の野鳥が居る所(保護場所の近くが良い)で、直接的な外敵が見当たらない場所。
樹木が多く、餌場や水が近くにあれば理想的である。
放鳥時間
 気温、風等が穏やかな日を選ぶ。昼行性の鳥は早朝に放す。夜行性の鳥は夕刻に放
鳥する。放鳥場所へ運ぶときは餌と水は入れない。その直前までは充分に、餌と水を
与えてから放鳥すると良い。そして、収容していた箱のふたを開けて、自然に出て行
くのを待つ。
固定と切開●ドバトの産卵抑制(インプラント法)
 ドバトはコリプトコッカスの媒介源として注目されており、地域によっては駆除の
対象になっている。本法によるドバトの産卵抑制効果はおそらく生涯にわたって持続
するであろう。
 塩酸ケタミン30mg/kgで全身麻酔し、腹部の正中線を止血鉗子で、3cmほど座滅する。
鋏で皮膚を切開する。その部の腹筋を鉗子で座滅し、鉗子の先端で鈍性に筋を分離し
て、腹腔に達する。鉗子先端で鈍性に剥離して、腹腔内に空間を確保する。イヌ用ジー
スインプラント(100mg)を1本挿入する。筋層に次いで皮膚を縫合する。野鳥としての
ドバトが駆除の対象になっている地域では本法の実施が望ましい。
他の鳥への応用
 鳥の大きさに関わらず、イヌ用ジースインプラント(100mg)を1本挿入が原則である
が、鳴禽類では本剤の1本は物理的に挿入困難、そのため出来るだけ多量に挿入する。
カラス:1本、100gの鳥(オカメインコ大の鳥):2/3、50gの鳥(セキセイインコ大
の鳥):1/3~1/2の挿入移植が標準である。a 呼吸困難,出血の有無の判定。
最初にチェックするのが呼吸困難と出血の有無で身体検査に先立って行われるべき
で、呼吸困難への対処が最優先される。下顎を引くようにクチバシを開け舌を突き出
して鳴き声と共に換気しようとする時は最も激しい呼吸困難である。出血では部位を見付け出し指による圧迫止血法または止血用クィックストップの粉を
用いた化学的止血法を実施する。傷口が大きければ、焼烙法による止血処置または縫
合が必要になる。
次に、鳥獣が暴れないように保定し、 外傷の程度や体に付着している排泄物や寄
生虫などを調べる。その際、鳥獣の体温を奪わないように軍手やタオルなどを用意し
て行う。また聴診器を使って心臓や肺などの内臓機能を調べる。鳥類では心肺の聴診
は左右の肩甲部間で行う。
b 体重、体温測定。
 体重は鳥獣の体調や餌の分量などを知る大きな手がかりとなります。
直腸温を通常の体温計で測定。多くは40℃~42℃である。低体温に陥っているときは、
急速な加温は極力避け、徐々に温めることが大切である。ドライヤーで温めないで、
新生児用哺育器(インファント・インキュベーター)に収容して、30℃に保つ。湿度の
調節ができるのであれば60%程度を維持する。c 身体検査。外貌上異常がないか。詳細に視診する。
とくに出血あるいは骨折の有無。つぎに胸郭前部のソノウ内容の有無、大胸筋の発達
具合、腹部の触診へと移る。 
触診の仕方と要点
1 ソノウの内容の点検
2 大胸筋の発達具合
3 腹部の触診 
 
 呼吸困難の有無の判定。
身体検査の項で述べたが、重要な項目なので詳述したい。保定下で、腹部を触診する
ことで、呼吸困難の起源が呼吸器由来なのか、腹圧が高くて換気量が減少しているの
かが判定できる。身体検査に先立って行われるべきで、呼吸困難への対処が最優先さ
れる。 安静にしている鳥が次のような症状を示す時はかなり激しい脳の酸素不足状
態にあると推察される。
1 開嘴呼吸: 吸気時に下顎を引くようにクチバシを開ける。 最も激しい呼吸困難
では舌を突き出して鳴き声と共に換気しようとする。
2 尾翼呼吸: 吸気時に尾翼を押し下げるようにする。
3 総排泄孔呼吸 : 吸気時に総排泄孔が動く。
4 肩呼吸 : 呼吸に一致して肩が上下に激しく揺れる。
以上が努力性呼吸で、あらゆる筋肉を総動員して換気量を増やそうとしている。
5 白、または黄色のクチバシを持つ鳥ではこの部の血液が透けて見えるため健康な
鳥は幾分赤色をしているが、酸素不足の時はチアノーゼが認められる。
 
呼吸困難の症状を持つ鳥の取り扱い方
 安静状態で上記の呼吸困難の症状のいずれか、あるいは重複して示す鳥はもはや全
く酸素摂取能力に余裕がない状態である。捕まえようと手をケージの中に入れた時に
暴れただけで心停止を招きかねない。鳥の心拍数は体重50g程度の鳥では一分間に300
回を越える。したがって心筋は酸素不足で容易に停止し、突然死を起こしやすいと言え
る。
1. いきなり捕まえたりしないで呼吸困難の様子や程度をよく観察する。
2. 60%以上の酸素を30分以上吸入させる。ケージをビニール袋などに収容して、酸素を
注入する。いわゆる酸素化を充分に行い、吸気時にクチバシを開けていたのが、クチバ
シを開けなくなった、あるいはチアノーゼが消失したなど何らかの症状の改善が見ら
れたら短時間の触診も可能となる。
3. 充分酸素化をしても症状の改善が認められない時は抗生物質のエアロゾールの吸
入法など鳥を束縛しない方策を考慮する。
4. オウム病・マイコプラズマ症などのズーノーシスの可能性もあるので取り扱うヒト
はマスクを着けるなど感染防止に努める。呼吸困難を示す鳥の処置
1ネブライザー法(一日二回実施)
GM1ml、生食水8ml、アレベール1mlを加えた液を霧化して、20分吸引する。
2 抗生物質の筋肉注射
ABPC(注射用アミペニックス 1gを19mlの水に溶解したもの),犬猫用バイト
リル 2.5%注射液,プレドニソロン注射液(10mg/ml)。
この三種類を100目盛インスリン用注射筒に体重50g程度の大きさの鳥では各々0.02ml
づつ取り,100g程度の大きさの鳥では0.04mlづつ取って、大胸筋への筋肉注射を一日
二回する。呼吸器に使用する薬物(文献1)
1 ミノマイシン 顆粒(20mg/包)の2包(40mg)を10mlの水に溶解する。
2 ジョサマイ シロップ(30mg/ml)
3 ケトコナゾール錠(ニゾラール ・200mg/錠)の1/8錠を良くすりつぶし、10mlの
局方単シロップに懸濁させるか、もしくは2の液に懸濁させても良い。以上の抗生物
質を飲水10mlに各10滴割合で入れて、必要量をつくる。混和して、2週間以上に
わたって自由飲水させる。
4 症状が重い時はデキサメサゾン・エリキシル(0.1mg/ml)を1~2滴更に加える。
塩化リゾチームの投与も効果的である。 出血
 出血は外傷、感染症、代謝病、栄養性疾患、腫瘍等の種々の原因で起こる。外傷が
小さければ治療は容易である。今、眼の前で出血しているならば、出血点を指頭で圧
迫すべきである。一滴でも失血を少なくすることが、生死を分けることになる。圧迫
しながら、必要な機材の準備を待って、外科的な処置を行う。
 生長中の羽軸の折損、骨折、爪や嘴の折損、とくに症例の多いのは翼の開放性骨折
に伴う出血である。折損して、出血している羽軸は根本から抜くと容易に止血できる。
なお、それでも出血のあるときは羽軸の基部が皮内に残存している可能性があり、羽
嚢を触診して、確実に除去する。このときもクイックストップのような止血剤を使わ
ずに数分間、軽く圧迫することで止血できる。
 爪の折損によるものは、横から強く圧迫して止血し、これを数分続けると止まる。
なお出血があるときは濡らしたティッシュペーパーを当てて、その上からアロンアル
ファーを塗ってかためる。
 嘴の損傷は飼い鳥では積極的な治療管理が可能であるが、野生鳥ではその折損の程
度によっては安楽死が考慮される。内出血について
比較的太い血管の損傷からの血腫、肝・腎・脾からの出血は生命を危うくする。実際
に内出血があるのかを知ることが、当面の目標で、外傷が明らかな出血を伴うときは
この処置を最優先にする。レントゲン検査、超音波検査等で内出血の有無を確認する。
その出血の程度がゆっくりであれば鳥はかなり耐えられるが、そうで無ければ直ちに
止血のために、外科的処置の決意が必要である。
 失血量が数分間で20%近くになると、致命的である。体重が30g 程度の鳴禽類の仲
間では、動脈性出血が5滴を越えると数分で、死亡する。しかし、数時間かけてゆっ
くり出血するときは、かなり耐えることができる。失血の影響を最小限にするために、
輸血あるいはコロイド質の輸液を直ちに開始する。極度の貧血時の症状
1 皮膚・爪・粘膜が蒼白になる。出血局所の暗赤色化、腫脹。
2 CRTの遅延:白い色の嘴、眼瞼あるいはトサカを圧迫することで判定できる。
3 呼吸数・心拍数の増加と呼吸困難
4 表在静脈の狭小化(皮膚尺側静脈・正中中足静脈・頚静脈)、脈圧の変化、低血圧。
5 その他の非特異的症状として、全身衰弱、 無意味な騒擾が見られることがあり、
あるいは逆に保定が容易出来るようになる。脚の皮温の低下。輸血療法(文献2)
 同種のドナーからの輸血が理想的であるが、多くは異種間輸血が行われる。健康な
ドバトから2.5mlを限度として、ヘパリン液で内壁をぬらしてツベルクリン用注射筒
で採血する。採血部位は通常、皮膚尺側静脈が使われる。受血鳥には小さな鳥では、
脛足根骨に、ハト位の大きさの鳥では尺骨に骨髄内カテーテルを設置する。この血液
をシリンジポンプで数時間以上掛けて、極めてゆっくり注入する。血液が手に入らな
いときは、低分子デキストラン等の血漿代用液を用いることもある。最近ではオキシ
グロブリンが使われる。適正採血量
鳥類の循環血量はおおよそ体重の10%で、6~12ml/100gである。40gのセキセイインコ
で、総血液量は2.5~3.0mlである。それ故ショックをおこさずに採取できる血液容量
は健康な鳥で、このサイズのものでは0.5mlが最大である。アマゾン種やヨウムのよ
うに250~400gの体重の鳥では、2mlの採血が安全量である。ツベルクリン用注射
筒(27G・1/2)をヘパリン生食水(生食100mlにヘパリン100IU)で、内面を濡らして、凝
固を防止する。
すべての鳥は同サイズの哺乳類と比較して血液損失によく耐える。血液喪失に伴う脾
臓収縮は鳥では起こらない。
採血部位
1 右側頚静脈
セキセイインコ、タカ、ペンギン、フラミンゴ、ダチョウを含めて最も採血のしやす
い部位である。この場合は採血者がケガをしないように最大の注意を払う必要がある。
この部位はハトでは、とくにオスの場合に、頸部に大きな気嚢を有するために採血に
適さない。哺乳類ではそうではないが、鳥では頚静脈はより可動性があり、明確な流
量が無くてもクビの右側に見つけることができる。頚静脈は無羽毛線の真下にしばし
ば存在する。消毒剤やアルコールで濡らすとより見やすくなる。指の上にクビを載せ
て、その皮膚を緊張させる。親指で静脈を浮き上がらせるために胸郭に入口で駆血す
る。
2 皮膚尺側静脈:多くの鳥では肘関節部内側を、酒精綿で羽毛を濡らすと容易に見
つかる。ダチョウを含めて、多くの鳥でこの部位で採血できる。小鳥では採決後に血
腫になりやすいので、5分間は連続して、圧迫止血する。
3 正中中足静脈
この静脈からの採血は、1964年にカモで初めてMurdockによって記述された。簡単に
は見つからないがカモ以外でも、多くの鳥で利用できる静脈である。タカやハト、と
くに麻酔をかけていないハクチョウでも使える。中足骨の内側を、指で静脈を圧迫し
て、消毒薬で濡らすと、角質層の下の静脈を浮き上がられることができる。この静脈
は周囲を組織で囲まれているので、血腫が出来にくい。またくりかえし採血ができる。
ヘマトクリット管に採血するだけなら、25Gの針だけで、血管を穿刺し、ハブに貯ま
る血液をヘパリン処理ヘマトクリット管二本に採る。
4 爪の切断
本法は10gあるいはそれ以下のフィンチ類では大変有用である。糞や土などで簡単に
汚染されてしまうから、脚と爪は充分に消毒する。
爪を切ったらヘパリン処理したヘマトクリット管2本に血液を採る。そのとき爪を側
面から絞らないようにしないと爪の細胞成分が入り込む。鳥における安全採血量(一週間間隔)(文献3)体重 採血量                体重 採血量
50g    0.3ml                600 g   3.6 ml
100    0.6                 700   4.2 
150    0.9                 800    4.8
200    1.2                 900    5.4
250    1.5                1000    6.0
300    1.8                1200    7.2
350    2.1                1400   8.4
400    2.4                1600   9.6
450    2.7                1800   10.8
500    3.0                2000  12.0 
550    3.3                2200 13.2
                       2500   15.0通常はPCV,TP,BSと薄層標本2枚を行うのに0.10-0.15ml必要
正中中足静脈から25Gで採血してミクロヘマトクリット管三本に入れる。
採血量は1m/体重100gが最大量で、通常は0.6ml/100gが推奨されている。●Capture Myopathy(捕獲筋障害)(文献4)
Overstraining disease(過緊張病), Capture disease, Stress myopathy,
Exertional rhabdomyolysis(労作性横紋筋融解:mustle melt down)と同義語である。
野生動物(とくに有蹄目と野鳥で感受性が高い)の捕獲時の過度の筋運動に加えて、そ
の後のケージ内係留中の恐怖と不安の複合的なストレスが原因によって死亡する。主
要所見は急激な攣縮による骨格筋群の広範な壊死で、代謝性アシドーシスが骨格筋の
無酸素性解糖の結果、乳酸産生が増大して起こる。ストレス反応でアドレナリンの大
量分泌が起こる。このカテコールアミンに結合した血中のカリウム値が上昇するに連
れて、心拍出量が減少する。そして末梢組織の血液還流が低下し、筋肉の激しい酸素
不足を招来し、筋壊死に陥る。個体差と病気の重症度は関連が深い。そのため臨床症
状は変化に富むわりには剖検所見は全く同一のことが多い。
Capture Myopathy(捕獲筋障害)は時間の経過で次の様に分類される。
★preacute(甚急性)
代謝性アシドーシスとカリウム値の上昇は心室細動、循環不全を招き、数分以内に死
亡する原因となる。ストレスに対する心筋のエピネフリン暴露時の感受性が判ると防
げるかもしれない。病理組織学的変化が筋肉に認められる。
★acute(急性)
肺水腫からほぼ12時間以内に筋肉硬直、沈鬱、頻拍、呼吸数の増加等が起こって死亡
する。肉眼所見はわずかに腫脹し、蒼白な筋肉が見られる。時には筋断裂により重度
の出血が発生する。
★subacute(亜急性)
筋肉に起こる様な変化は内臓にも発生し、動物は麻痺に陥る。筋色素尿
症myoglobinurea起因する腎不全が死因になることもある。筋色素は尿細管上皮を直
接障害する。慢性的な繊維性変化が骨格筋と心筋に起こる。
○診断に必要な試料
血液:電解質特にカリウムとクレアチンフォスホキナーゼ等の筋肉酵素
採血時のわずかな溶血はK値に影響を及ぼすので注意。
○病理組織の採材は重要である。新鮮な組織を10%緩衝ホルマリン液で固定する。最
低でも、背部、後肢および肩の筋肉と心筋と肝臓を採材する。
●治療
治療はたいていうまく行かないので、予防が肝要である。
代謝性アシドーシスには静脈内に重曹(重炭酸ナトリウム)の点滴。計算で不足分を算
出すべきであるが、困難なことが多いが、多量の投与は逆にアルカローシスを起こす
可能性がある。保存療法としては臨床所見を詳細にとって、4から6mEq/kg・BW/hr
を反復投与すると良い。点滴液は生食が良い、リンゲル液はその中にカリウムを含む
ので不可。抗酸化剤としてのビタミンEとセレンの投与も良い。
予防法
●騒擾を最小に押さえる。
●高温多湿時の保定を避ける。
●野生動物・鳥類を袋や網に閉じ込めない様にする。
●心理的ストレスを減らす。目隠しも効果的である。
●出来るだけ直接的な接触を避け、保定する時は静かに取り扱う。
給餌/給水のためにどうしても短時間保定する必要がある時は、出来るだけ早く保定
を解除する野生動物のストレスと保定と輸送
野外で短時間動物を収容する時は金属ケージより木製輸送箱が良い。このコンテナー
の大きさは動物がケガしないほど充分に大きく、自然な姿勢を取れるものが良い。輸
送中は常に換気に留意する。薄暗い明かりがあるか、暗い方が良い。給水用に水を含
んだスポンジ、リンゴ、オレンジ、キュウリ、ジャガイモ等が使える。餌はまき散ら
すかもしれない。陸上輸送する時は途中で停車して、休憩を与えること。D.輸液療法、脱水の治療
 何らかの病態を示している鳥の多くは一般に10%程度の脱水を示していることが多
い。
1 容体安定化策の実施:酸素吸入、保温、カロリー補給
2 等張ブドウ糖加リンゲル液(輸液開始液)をボラスとして肩甲部皮下、脇の皮下へ
の投与、あるいは骨髄内に持続点滴注射。
3 食欲廃絶を示す場合は、食性に合った病院食餌(フォミュラー、エレンタール、
ニュートリカル等の強制給餌の実施。原則として、少量を、頻回。投与前にソノウを
触診して、前回の餌が無くなっていることを確認してから与える。
4 必要な薬物の非経腸投与(筋注・静注)
骨髄内輸液
体重が100gをこえるおおきさの鳥で、著しい脱水、低血圧で虚脱に陥っている場合こ
の骨髄内輸液は有効な治療手段である。通常尺骨か脛足根骨(下腿骨)が用いられる。
25Gあるいは18Gの注射針を骨端から回転させながら緻密質を突破し、骨髄内に
到達すると針先の抵抗が急に小さくなり、骨髄液が逆流する。翼状針をこの穴から刺
入しても良い。これより大型の鳥では22G程度の留置針を骨髄内に刺入する。イン
ジェクションプラグをつなぎ、翼状針を装着する。
この装置は近くの風切り羽にテープで固定する。この際風切り羽根を痛めないように
細心の注意を払う。
通常の輸液剤は電解質を含むものなら何れでも良い。乳酸加リンゲル液、等張リンゲ
ル糖液、例えばソリタ-T1号(清水)や等張リンゲル糖V注射液(日本全薬)が用いら
れる事が多い。推奨されている点滴速度は15ml/kg/hである(文献5)
10%の脱水だと輸液量は維持量で50ml/kgで、さらにこれまでの不足分プラス現在も
失われている量を加えたものを48時間から72時間すなわち2、3日かけて輸液する。
結局、10%脱水状態では、2~3ml/kg/h程度になる。
すなわち、鳥の尿はほとんど固形に近いほどに濃縮されているから、腎および尿生成
過程(尿洞)における水分の再吸収能はほとんど100%に近く、鳥は効率良く水を再利用
している事になる。従って過剰な輸液は容易に肺水腫を招来する。液体の尿が排出さ
れ始めたら、水分飽和と考えて輸液を中止するか、速度を遅くすべきである。また注
意すべきは関節硬直の問題である。輸液による効果が現れて、起立できる、あるいは
食欲を示すならば速やかに留置針を抜去して、その部の関節を可動範囲一杯に強制的
に曲げ延ばしして関節硬直を予防しなければならない。一番の機能回復訓練は翼の場
合は脚をもって羽ばたかせることである。脚の場合には歩かせるのが一番良い。低体温および低血糖に陥っている瀕死期の鳥の治療 
 反射が全く消失し、低体温に陥っている鳥にしてはならない治療法は高濃度の糖分、
例えば20%あるいは50%のブドウ糖液を経口投与したり、腹腔内に注射することであ
る。こうして与えられた過度の糖分は血中に吸収されて高血糖状態になる。これは膵
臓を刺激してインスリンの分泌を促す。もし引き続き栄養補給が行われなければこの
時点でこの鳥は更なる低血糖へと移行することになり死亡するかもしれない。
低体温および低血糖に陥っている瀕死期の鳥は通常咽頭・喉頭反射が共に消失してい
るため経口投与はできない。
腹腔内注射  腹腔内に温かい乳酸加リンゲル液と5%かあるいはそれ以下の濃度の
ブドウ糖をそれぞれ等量注射する。等張性ブドウ糖加ラクトリンゲル液が使いよい。
またソリタ1号の様な輸液開始液が適している。腹を上にして保定して、血管の走行
のない部位で浅い角度で腹腔に刺入してゆっくり注入する。これは腹気嚢を誤って刺
さないためである。体重50g程度では1~2mlを温かくして注射する。鳩では3~5mlを
投与する。直ちにインキュベーターに収容して当初は28℃、30分ないし1時間後には
必要があれば再度腹腔内に輸液し、29℃更に30℃と保温温度を上げる。こうして保温
と電解質と糖分の補給がうまく行けばやがて動けるようになる。そして排尿ないし排
便が始まるまで少しづつ補給を続ける。喉頭反射が発現したなら、上記の流動食の経
口投与に変える。当初は極少量を与え、嘔吐しなければ30分ごとに数mlを与える。い
つもソノウが餌で一杯になっている状態を保つ様に努力する。いわゆる不断の給餌が
低血糖の鳥を救う最良の方法である。脱水の臨床症状(文献6)
ワシタカ類程度の大きさの鳥における足根中足部、顔面あるいは肩甲骨間の皮膚で判
定する。
一般的には10%の脱水に陥った時に臨床的に脱水であると把握できる。脱水%           臨床症状
5%以下   明らかな症状ないか、あるいは飛節部、顔面、肩の間の皮膚に
         わずかなテント様こわばり。
5~6% 皮膚の弾力性の低下、皮膚の短時間のテント様こわばり
7~10%   持続的な皮膚のテント様こわばり。 眼の輝きの消失。軽度の体温低

        上眼瞼の瞬目の遅延。   口内は乾燥し、ねっとりした口内粘液。
10~12%  皮膚のテント様に突っ立つ。 脚の鱗片が暗色に変化。
        粘膜の乾燥。 脚の寒冷感。急速な心拍。沈鬱。
12~15%  上記変化の他に、極度の沈鬱、頻脈、ショック状態、虚脱、瀕死期。さらに小さな鳥の鳥では、眼の見かけ上の大きさで脱水を判定する。
5%以下では、大きな印象の眼球。
10%以上では、明らかに小さな印象の眼球。
これは眼球の大きさに変化があるのではなく、眼球を取り巻く眼窩内の細胞の水分保
持状況を反映している。給餌法(文献7)
猛禽類には割り箸を使うと便利で、エサの肉を少し湿らせておくと給餌がスムーズ
に行く。鳥の目の前でエサを動かしてみると本能的に食べることがある。魚類は頭や
内臓があるものを使用する。口元に持って行くと食べる事がある。強制給餌の時は、
魚の頭の方から与えなければならない。
植物食の水鳥はパン片が無難で、まず、水の入った容器に細かくした食パンを浮か
ばせて口元に置いてみる。野鳥が暴れて容器をひっくり返されることが あるので、
そのつもりで作業をした方が良い。流動食や補液には、鳥類専用のニードルや補液用
カテーテルを使うのが良い。専用のカテーテルが なくても補液セットのチューブを
適当な長さに切って使うのも良い。
給餌、強制給餌、補液は、経口授与する訳だが、間違って気管内に入れては いけ
ない。舌の付け根に気管の入口があるので、口を強制的に開けてしっかり口の中を確
認してほしい。
 カテーテルは確実にソノウ又は胸部食道まで挿入しないと大量補液の際、逆流する
ことがある。また、カテーテルを食道内から抜く時は、必ずカテーテルを折って補液
がポトポト落ちないようにしなければならない。気管内に誤飲すると命に関わること
になるので、くれぐれも注意する。流動食の作り方。
食性に合致させることが大切である
スズメ程度の大きさの鳥の強制給餌法
1 呼吸困難がないかよく観察する。
2 流動食を体温近くまで温める。
 流動食としてはフォミュラー3が最適で、3倍の温湯で溶く。
3 4cm程度のカテーテルの付いたシリンジに流動食を2ml取る。
4 鳥を確実に保定し、頸部をやや伸ばし加減にする。
5 開口させてカテーテルを静かに食道内に進める。
 開口法: 爪楊枝、クリップ、開口器を使う。
6 ソノウ底に達したら、カテーテルを少し前後に動かして、折れたり、曲がってい
ないかを点検する。
7 流動食を静かに流し込む。もし、流動食が逆流するようなら、直ちに保定を解除
してケージに戻す。
8 カテーテルを静かに引き抜く。
9 しばらくクビを伸ばしたままに保定して、流動食がソノウ内に落ち着くのを待つ。
10 ケージに戻す。低体温を示している鳥の栄養補給
低体温および低血糖に陥っている瀕死期の鳥は通常咽頭・喉頭反射が共に消失して
いるため経口投与はできない。腹腔内に乳酸加リンゲル液と5%かあるいはそれ以下
の濃度のブドウ糖を5~20ml/kg注射する。腹を上にして保定して、血管の走行のない
部位で浅い角度で腹腔に刺入してゆっくり注入する。これは腹気嚢を誤って刺さない
ためである。30℃の気温の部屋に収容する。体が油等で濡れているときは35℃の室温
とする。翼の整形外科は行うべきか否か。
飛翔再開までの時間の掛かる翼の複雑骨折は関節硬直を招くので安楽死される症例が
多い。従っていわゆる単純骨折で外固定あるいは内固定法が可能で、手術直後からそ
の骨の近位、遠位の関節の関節運動が出来るような症例なら積極的に手術する。とく
に指骨あるいは橈尺骨の内のどちらか片方の骨折は飛翔できる可能性がある。
翼のテーピング
翼のテーピングは骨折の術後(ピンによる体外固定を除く)に重要である。翼の固定は
下図(写真)の様に単独に翼のみテープで矢印の通りに巻き・3-4・5の順に肩甲部を身
体に密着するように保定する。
鳥は治癒治癒日数も早く、単骨折の場合 10日で骨造成を終えることがある。鳥は哺
乳類と異なり長い日数保定すると関節は神経、腱に影響して正常に動かなくなる。こ
のためにテープを外した日数以上に羽ばたくリハビリ期間を要することを考慮すべき
である。脚の骨折
 単純骨折の場合には骨髄内ピンニング法が好んで用いられる。
1 局所を開かないで、遠位の関節面からピンを挿入して、
2 外部から触診で近位の骨折端内にその先端を導き、
3 つぎに近位骨髄内を刺入可能な所まで、ピンを押し進める。
4 少し引き戻して、ピンを切断。
5 ポンチでピンの先端を骨髄内まで押し込む。
6 皮膚を縫合して終わる。腹腔内の外科手術はつぎの症例に適応される。
1確診・診断のための試験開腹。
2腺胃、筋胃内の異物、閉塞物の除去
3腫瘍の摘出
 腹腔は背側に左右の尾側胸気嚢があり、その遠位に左右の消化管腔があって、ここ
では背側からの腸間膜で消化管と生殖器官が吊されている。そのため気嚢と消化管は
強固に結合している。この腹側には左右の肝葉を容れる肝臓腔があり、左右は腸間膜
で分離されている。 
 腹腔へのアプローチは正中切開で、生殖腺あるいは副腎の腫瘍は腹壁側方切開が臓
器あるいは付属の血管へ到達しやすい。筋肉は哺乳類と似ているが,白線の幅や筋肉
の厚さは種類によって異なる。飛行が巧みな種類ほど筋肉はよく発達し、弾力性に富
み、鳥特有の呼吸器官である気嚢への空気の取込みを活発にできる。Harrisonはこの
正中切開に加えて、リブケージの後縁に沿う線で切開を追加すると大きく腹腔を見え
ることを示した。総排泄孔付近には脂肪が沈着していることが多く、この部からは消
化管腹腔に接近することは難しい。少し近位にずらして結合織を分離すると消化管腔
に接近できる。
鈍端の外科鋏で正中を切開する。このとき鼡歯鑷子で白線を持ち上げて、その下の臓
器を保護する。さらに右肝葉腔に接近する為の開孔部を分離する。肝葉の下には薄い
膜状の気嚢が存在する。筋胃は正中線で、腹壁に腸間膜で固定されている。腸間膜の
その端は左肝葉を容れた肝葉腔へ続いている。肝臓腔には気嚢はない。肝臓の後方に
ある中隔膜の厚さと半透明性は鳥の大きさで異なる。小型鳥類ではこの部は脂肪が沈
着している。気嚢は周囲組織で取り囲まれ、癒着しているので、例えそれが破裂して
も虚脱して変異することはない。気嚢は破壊されてもあまり呼吸器系には影響を与え
ない。近年は炭酸ガスレーザーで出血の少ない、組織侵襲の少ない手術が可能となり、
外科的適応症例が増えている。
釣り針を除去しないと回復のチャンスがない。積極的の手術すべきである。ソノウ内に釣り針が確認される場合
 ソノウ内に釣り針が確認できたならば、塩酸ケタミンで全身麻酔し、必要があれば
局所麻酔を皮下にする。針を触診し、その付近のソノウを一部切開し、針を鉗子で確
保して、針先をソノウ壁を突き破って出す。できるだけ引っ張ってハリスを切る。道
糸が長く、消化管内に入り込んでいるときは無理に引かない。太い道糸の時は案外安
全に排泄される。取り出したソノウの孔は5-0ないし6-0で二重縫合する。皮膚もで
きるだけ細い糸で縫合する方が鳥に違和感がなく、術後の創のツツキもない。術後の
給餌は長めの管を頸の筋肉に沿って食道を進め、胸郭入口から胸腔内に誘導する。そ
れから流動食を注入する。ソノウ内に流動食が入らないようにすることで確実な手術
創の癒着が期待できる。3日目からはソノウ内に流動食を注入できる。筋胃内に釣り針が確認される場合(筋胃へのアプローチ)
 成書によると正中切開で容易に到達できるとあるが、切開部位は前胃部(腺胃部)に
設けるべきで、すべての内臓は体壁に腹膜で強固に固定されているので、術野に引き
出しにくい。前胃部(あるいは腺胃部)はアプローチは簡単ではない。筋胃を静かに尾
側に引くと視界内に持ってこれないこともない。筋胃の筋層の厚さは穀物食鳥で発達
して厚い。こうした鳥では炭酸ガスレーザーで筋を切開しないと出血が多い。 演者
は卵管切除時と同じように左側腹壁を切開する。総排泄孔近くの骨盤前縁から最後肋
骨2本まで皮膚を切る。
腹壁の筋層を切開。つぎに肋骨を二本鋏断またはレーザーで切断して、外側に反転し
て視界を広くする。筋胃には切開部位は設けずに、その前の前胃部で動脈を避けて、
できるだけ大きく切開する。また異物摘出のための器械操作時に創口が拡張しないよ
うに、その切開創両端には一糸ずつ縫合して、固定糸を兼ねておく。ここからモスキー
ト鉗子を入れて異物を検索する。釣り針のような“もどり”のあるものは、引かずに
逆に釣り針を確実に把針器でつかみ、押し進めて、その先端を筋胃から出す。ニッパ
でこの針の“もどし”を切り落とす。残りの釣り針を引き抜く。腺胃部の閉創は、5
-0ないし6-0Maxonのできるだけ細い糸を用いて、二重に縫合する。筋胃部は3-0メ
ディフィットで縫合。皮膚の縫合は小型の鳥では5-0ないし6-0の細い糸で縫うと違
和感がなく術後につつくことも少ない。E-COLLARを7日間装着。7日目に抜糸する。
術後管理
 骨髄内輸液を3日間実施。L/R・ブドウ糖混合輸液(ソリタ1号等)。抗生物質はバ
イトリルを推奨。4日目から経口摂取開始。小型鳥類や衰弱しているものにあっては
当日から給餌開始しないと餓死する恐れがある。その時はエレンタール、フォーミュ
ラー3を、あるいは魚食性の鳥ではすり身を与える。少量頻回。治療の実際
釣り針の誤嚥
釣り糸が口内から垂れているときは引っ張らないで、先を確保する。そしてテープで
体あるいは嘴に止めておく。
1口内に釣り針が見えるときは、針の戻りの部分をニッパで切断すると、容易に摘出
できる。全身麻酔が必要なときもある。口内には糸しか見えないときはレントゲン写
真で針の位置を確認する。
2ソノウ内にある時は長い止血鉗子で、針を保持して、針先の戻りをソノウ内腔また
は皮膚に突き出して、戻り部分をニッパで切断してから、針を摘出する。*図1
腹腔区分
A:肝、上部消化器官(胸部食道、腺胃部、筋胃部)への到達ルートを示す。
B:生殖器、腎近位への接近ルート
C:小腸、卵管への接近ルート
*図2
腹壁の切開
総排泄孔近くは結合組織が多いので少し離れた近位から切開を始める。
*図3
腺胃の固定と切開
筋胃は可動性があるので、創孔まで引き出し、固定糸で固定する。○外傷の予防は極めて重要で、野生として生活するには、100%の能力を発揮できて初
めて安全の確保ができ、餌にもありつける。野生では食うか、食われるかである。羽
根の損傷及び手根部の擦過傷、脚の擦過傷、趾瘤症、嘴の損傷、爪の脱落等が比較的
多く見られる。入院中に羽を傷めないための工夫、注意点
1狭すぎるケージ
羽根が壁や近くの物体にふれることなく、鳥が翼を広げる(開翼長)に充分な大きさが
必要
2周囲が硬い素材で作られた飼育ケージ
予防としてスポンジなどのクッション材をケージ内に貼る。あるいは内側に重いネッ
トを張る。
羽根の損傷
たった一枚の羽根の損傷・脱落が生存を左右する。
再生には最短で4週間かかる。大型のワシタカ類では、最長では数年かかることもあ
る。
1風切り羽根、尾羽の保護
 後躯麻痺、頭部打撲あるいは三半規管の機能不全によって定位が出来ない場合、両
脚骨折で起立出来ない場合および、止まり木が低すぎる場合には尾羽の先端が糞で汚
染されたり、擦れる。タカ等の大型鳥では換羽が2年に1回の頻度でしか起こらない
から羽根の保護にはとくに留意する必要がある。
レントゲンフィルム、封筒や透明クリアーファイルを尾羽全体か、先端から半分を覆っ
てこれを上尾筒と下尾筒にセロテープで留める。総排泄孔を覆わない。初列風切り羽
根の先端数枚(初列風切り第8の前後を数枚)自然に重ねて、中に同じ幅のクリアーファ
イルの芯を入れてテープで止める。
2手根部の擦過傷
ケージ内で翼を広げてばたつくと、簡単に手根部が傷つく。ヒトの動線から視界を遮
断して、暴れる機会をできるだけ少なくする。
片脚骨折あるいは両脚骨折では翼を使って前進しようとして手根部を傷つける。この
部の保護としてはニチバンから販売されているカテドレwpの種々のサイズを手根部
に張り付けると簡単には剥がれずに良い。鳥も意外と気にしないでうまく装着できる。3趾瘤症(文献8,9)   
脚の裏が傷つく要因
a止まり木の表面が粗剛である。
b止まり木が滑りやすいので力を常に力を入れて止まっている。
c片足を痛めた際には健康側に体重をかけ過ぎる。
d体重の増加でうっ血が強くなる。
e飛行時間が全くないか、極めて短いために脚裏を休める時間がない。
 海ガモ類では24時間洋上生活のため、収容されたケージの床材が不適当だと簡単
に脚裏を傷つける。絨毯の滑り止めなマットが好適である。
収容時間が長くなると爪が伸びすぎで脚の中ほどに体重負荷が集中してなる。さらに
長くなった爪では、その先端が脚裏に食い込んでくる。
症状
当初は表皮が菲薄化してピンクないし赤色を呈する。
やがて出血を生じ、細菌感染を起こす。やがて膿瘍を生じ、負重を嫌うようになる。
健康側にも同様の皮膚病変が進行して来る
さらに状況が改善されないと、炎症は次第に深部に及び骨膜炎、骨髄炎へ進む。
治療
原因の究明。
止まり木の直径や材質を変える。止まり木にVetwrapを巻くと当たりが緩和される。
止まり木が大きすぎるときは指骨の裏面に発生し、細すぎるときは掌の中
央(Metatarsal pad)に最初の症状が見られる。趾間包帯や球包帯を実施して保護を強
化する。
 局所への薬物の浸透性を挙げるためにDMSO(Dimethyl Sulfoxide)に種々の薬物を混
合して局所へ塗布する。DMSO1ml当たりバイトリル5mg,PIPC50mgを溶解して局所へ一
日数回塗布する。あるいはベノキシール数滴で表面麻酔した後、ヒビテンアルコール
液を滴下しても良い。この際、歯ブラシなどで局所の壊死組織等を取り除き、薬液の
深部への浸透を促す。
 膿瘍を形成しているときは、全身麻酔下で局所を広く切開して、チーズ様の膿を絞
り出し、局所の壊死組織等を除去するとともに、膿を容れていた線維性の皮膜も取り
除く。開放創とするか、せいぜい一糸の縫合に留めて腐敗産物を局所に閉じこめない
ようにする。
ガーゼにPIPCを含ませて小球を作り、これを局所に包帯で包みこんでおく(球包帯法)。
抗生物質の全身投与も合わせて行う。これらを数日くりかえす。滲出液がもはや見ら
れなくなったら、局所は縫合して閉創する。この時からカンジキ包帯または趾間包帯
をする。
 炭酸ガスレーザーを使った蒸散処置で、出血量を減らして、しかも、局所の壊死組
織等をほぼ完全に除去出来るようになり、骨髄炎までなっていない症例では完全治癒
も望めるようになってきた。カンジキ包帯法
自然に立った姿勢で、接地した脚裏から掌にガーゼ部分が当たるようにカテドレwp
を張り付け、表からは荷造り用の幅広のテープで互いに接着する。この時爪は露出し
て、握れるようにしておく。趾間包帯法
趾間に入るように種々の幅に切ったVetrapを用いて、遠位の足根中足部より巻き始め
る。第2趾・第3趾間には入り、中足部に一度巻きつける。ついで第3・第4趾間に入り
中足部に帰る。掌では緩めに巻き、趾の動きを阻害しないようにする。嘴の損傷 
 嘴の長い鳥が金網に突っ込んで折る。嘴は顎骨で支えられ、その上には血液の豊富
な真皮が覆う。さらに外側は蛋白のケラチンからなっている。損傷の種類
イ. ケラチン層の剥離。 成長を続けるケラチン層は採餌や種々の生活を通じて削
れる。伸びすぎる部位はほぼ一定である。とくに下顎は内側に巻き込むように伸びる
ために舌の動きを阻害して、採餌が困難になる。歯科用ドリルで研磨して調整する。
剥離した場合にもアロアルファーで接着しても良いし、削り取っても良い。
ロ. 真皮層からの剥離。出血を伴った剥離で、部分的なものは強く押しつけてケラ
チン質を顎骨に密着させる。この状態で接着剤で固定する。あるいは生長を待って切
り揃えても良い。
ハ. 顎骨の骨折を伴う場合。
 上顎の完全な骨折を持つ嘴は、その部は採餌に際してモーメントが掛かるために、
骨折の整復が徒労に終わることが多い。しかし下顎の頤の分離は文献的には、ケラチ
ン質と顎骨を貫いて十字にキュルシュナーで固定したり、ドリルの孔にビニール管を
入れて、その中にアクリル樹脂を流し込んで固定する。E. 爪の脱落
爪は基本構造は嘴に似ている。ケラチン質部が抜け落ちて、指骨が残っている場合に
は止血してバンデージで保存的にケアーすれば爪は再生する。しかし指骨が折損した
り、爪母が損傷を受けたときは爪は再生しない。F. 脚の擦過傷
小さな擦過傷でもかなりの出血を招く。5分間連続して強く圧迫して止血する。その
後湿らせたティッシュペーパーを局所に軽く巻き、その上からアロンアルファーを塗っ
て保護層とする。局所をつつく鳥ではEカラーをする。トリコモナス
トリコモナスは通常、口内から食道にかけて寄生する。
1 トリコモナス感染症に由来する誤嚥性肺炎
 トリコモナスは通常、口内から食道にかけて寄生する。鳥の口腔内はやや乾燥して
いるのが普通であるが、感染初期は口内が不潔な粘液が多くなり湿潤している。やが
てこの部位の粘膜が乾酪変性に陥り、黄色の硬い結節が形成される。この結節が餌の
食道内の通過を阻害して、誤嚥性肺炎を誘発する。いわゆる壊疽性肺炎で種々の治療
に反応せず極めて予後は不良である。口内の観察は手乗りのヒナではクチバシの基部
を横から圧迫して、親鳥では横から摂子などでクチバシを開ける。口内が乾燥気味で
ない症例は必ず検査する方が良い。
検査方法 綿棒を少し水で濡らし、口内ないし食道内を軽く擦過する。
2 a 塗抹染色法 この綿棒をスライドグラス上で転がす様にして塗抹し、ヘマカラー
染色する。先ず100倍で虫体を探し、400倍の倍率で鏡検して特有の鞭毛を持つ
虫体を同定する。しかしこの方法では濃厚感染を除いて検出率は低い。
b 直接塗抹法 塗抹した生の標本にカバーグラスをかけて顕微鏡検査する。100
倍で動きの解る原虫は病原性があると言われており、100倍の倍率で鏡検し、盛ん
に鞭毛運動をする虫体を検出する.
c 濯ぎだし(すすぎだし)標本
口内を擦過した綿棒をスライドグラスに置き、これに数滴の水を噴水壜から加える。
この水で綿棒を良くすすぐようにして洗い出し、最後にグラスに強く圧迫して絞る。
スライドグラスをかけずに100倍で鏡検する。少数寄生でも良く検出できる。治療法 メトロニダゾールを7日間連続経口投与する。 メトロニダゾールは水に溶け
ないので1/4錠を、食酢2mlで溶解し局方シロップで5mlとする。これを飲水10ml
に5滴入れて良く撹拌し、自由飲水させる。鳥は酸っぱいものも気にせず飲水する。
誤嚥性肺炎には後述の一般的な呼吸器病薬で対応する。
ロ 強制経口投与による誤嚥性肺炎
著者の病院では飼い主に種々の薬物や栄養剤の経口投与を決して指示しない。必ず薬
物を飲み水に入れて、これを自由飲水としている。またこの薬物の入った水を飲まな
いからといって強制的に口から飲ませないように更に強く飼い主に注意を促している。
セキセイインコは一日に多くても2ml程度しか飲まない。確実な頭部の保定ができ、
ソノウ底までカテーテルで送り込むことによって初めて安全な経口投与が可能である
のに、多くの病院で薬物や栄養剤の強制経口投与を飼い主に指示しているのは驚きで
ある。 演者は呼吸器病の症状を示す多くの症例ではオウム病・マイコプラズマ症の混合感
染を考慮した治療法を取っている。人獣共通感染症も考慮してマスク、手袋を着用す
る。これらはともに慢性呼吸器病で極めて完治しにくい。しかもヒトに感染の可能性
がある。同居鳥間の水平感染や親子間でのいわゆる垂直感染も当然考えられる。潜在
感染していて免疫力が落ちたときに発症すると考えた方が臨床体験とよく合致する。
すなわち餌が充分与えられなかったとか、保温が充分でなかったために体温が低下し
たとか、種々の要因によって潜在していた感染が臨床症状を持つまでに再燃される。
いずれもこの二種類は類症鑑別が極めて困難である。しかしこの鑑別は臨床的にはあ
まり意味を持たない。すなわち同一の薬物(テトラサイクリン系およびマクロライド
系)によく反応するからである。ただ、カンジダが関与することがある。このカンジ
ダも日和見感染的なことがあるので体力が低下した個体から良く検出される。ロ.カンジダの検出法
1 口内からの粘液の採取。水で濡らした綿棒で口内を軽く擦過して採取する。
2 眼結膜上皮細胞の採取。流涙がある症例ではベノキシール を一滴眼に滴下し、一
分後にはすっかり表面麻酔されるので、濡らした綿棒で結膜穹部を軽く擦過して採材
する。
3 糞便からの採取。糞便の内、消化管内容物である緑色ないし褐色の部分を直接ス
ライドグラス上に塗抹する。
以上いずれの標本もヘマカラー染色して1000倍で鏡検する。カンジダは濃い藍色
に染色され、細菌と比較すればかなり大きくしかも菌体周囲に染色されない周明庭を
持つので比較的見つけ易い。多くの場合剥離した角化上皮細胞に付着するように存在
する。中には発芽して菌糸を形成しつつある菌体も見つかる。
カンジダが検出されたならケトコナゾールを併用する。

ヘキサミタについて 病原体Hexamita meleagridis
 過去報告のあった宿主は七面鳥、鳩、多くのオウム類である。
症状 トリコモナスやジアルジアによく似た症状。多種多様な症状を表すが、時に無
症状の時がある。
 沈鬱、羽毛の逆立て、嘔吐、種々の色の下痢便、持続性の食欲廃絶、 嗜眠、体重
減少、
剖検所見はカタール性腸炎、小腸上部に寄生しており、 cyst は感染型である.
類症鑑別
1 呼吸困難、口内および食道内の黄色い結節形成はトリコモナスとの鑑別点である。
2 トリコモナスやジアルジアと違って全部で鞭毛は8本で、その内6本は前方にあり、
その動きはトリコモナスやジアルジアより明らかに速い。
治療 メトロニダゾール等の抗原虫薬。副鼻腔炎
 上部気道炎とも言われる。外鼻孔から後鼻孔さらに喉頭まではそれほど複雑な構造
ではないが、この上部の気道につらなる眼窩下洞などの副鼻腔の存在が構造を複雑に
して治癒しにく炎症を引き起こす
セキセイインコでは軽度のものでは蝋膜に開口する外鼻孔のすぐ上の額の羽毛が度重
なるクシャミの為に茶色く汚染される。重度のものはいわゆる“片目かぜ”と称される
片側の眼に不快感を訴えてしきりに止まり木にこすり付けたり、眼の周囲の炎症のた
めに閉眼したままになる。更には腫脹が激しくなり貯留するうみが皮膚を透して見え
るようになる。。膿の貯留した症例では全身麻酔下で切開排膿する。抗生物質の液で
充分に洗浄し、創口は縫合しないで開放創とする。経口もしくは筋肉注射によって呼
吸器病の前述の抗生物質を最低一月間は連続投与する。額の羽毛の汚れが目立たなく
なれば投薬を打ち切る。水鳥の鉛中毒
鉛中毒症の原因と症状
鳥類の胃は塩酸や消化酵素を分泌する腹胃と、食塊を機械的にすり潰す働きをする
筋胃に分かれている。筋胃内には小石や砂が常にあって、筋胃の働きを助けている。
そのため、鳥類は小石などを餌と一緒に取り込む習性をもっている。また、ハクチョ
ウ類、ガン類、淡水ガモ類などは、逆立ち採餌や水面採餌でエサを取る。そのために、
水深 lメートル未満の水底に沈んでいる鉛散弾や釣りのおもりを小石と間違えて取り
込んでしまう可能性がある。一方、摂取された鉛は、胃酸とすり潰し作用により通
常3日以内に 66%が溶解し、さらに腸管から吸収されて、3-10 日目には血中濃度が最
高値に達するといわれている。また、鉛摂取から発症までの日数は、5-7 日で症状が
発現し、急性では10日以内に死亡、摂取量が比較的少ない境合は、慢性経過をとり2
週-2ヶ月後に死亡するといわれています。おもな症状は、禄色の下痢便、また、顔面
浮腫、甲高い声で鳴く、水に入りたがらない、起立困難、嗜眠、緑色便のような症状を
呈するものもある。急性のものでは溶血と胆嚢炎で1~2日で死亡する。
 治療は血中鉛のキレート剤Ca-EDTA(ブライアン)の内服または注射がある。輸液
とグルタチオン等の強肝剤も投与する。まず初めは静脈内投与(40mg/kg/day、BID)
をして、4~5日間経口を行う。Ca-EDTAを粉砕しては餌の中に混入(10~15mg/kg/day)
して与える。輸液の項参照のこと。腺胃と筋胃の洗浄法。
1 マスクで3%イソフルレンを吸入して麻酔をかける。
2 喉頭反射が無くなったら、気管チューブを挿管。1から2%イソフルレンの麻酔
を継続。
3 鳥を45度以上の傾斜のある台に、頭を下向きに保定する。
4 食道にはいる出来るだけ太い管(ハクチョウ等の大型鳥類では水道用ホースが最
適)を用い、その表面にはベノキシール・ゼリーを付ける。
5 ゆっくりと食道内に挿入し、さらに胸郭内食道へと進める。
6 リブケージのおおよそ中ほどの位置まで管を進めると、腺胃内まで到達できる。
7 水道の栓を開き、ゆっくりと水を注入する。逆流してくる餌などのソノウ内容が、
気道内に侵入しないことを確認できたなら、水量を多くして、激しい水流を作り、腺
胃さらには筋胃内の鉛弾を洗いだす。
8 すべての鉛弾が洗い出せたなら、ホースを抜く。麻酔を中止し、酸素吸入のみ続
ける。
9 しばらくの間、頸を下げて、出きるだけ排水する。
10 口内を清拭する。気管チューブを抜管する。
11 麻酔が完全に覚醒するまで、頸は高く保持する。 放鳥・獣の場所と時間そして放鳥・獣後の調査
 放鳥時の注意、カラス、トビなどの攻撃からどう守るか。
 野生では体調が100%でないと生きていけない。保護翌日に著しい回復が認められ
る個体は、給餌後放鳥する。一週間以上収容されていた鳥が直ちに100%の生活能力
を発揮できるかは、大いに疑問がある。そのためにも大きなフライング・ケージのあ
る収容施設に入れて、充分な飛行能力と採餌能力を高める等の、野生復帰訓練をして
から放鳥すべきであろう。 放鳥・獣の時期の判定。
 救護施設での収容日数はできるだけ短い方が良い。1~2日なら直ちに放鳥できる。
それ以上になるとリハビリが必要である。渡りをする鳥では、渡りに時期を過ぎれば
翌年の同時期まで待たねばならない。
 晴天の早朝、同種の仲間がいる緑地帯が一般的であるが、充分に給餌してから放鳥
する。もちろん夜行性の鳥では夕刻に放鳥する。
 野生鳥獣の救護・放鳥の最終目標はその個体が繁殖に参加することである。そのた
め放鳥後の調査に資するために、脚輪、テレメーターの装着も考慮されるべきである。 
文献1中津 賞:私の診療シリーズ:飼い鳥の臨床(2),―鳥の呼吸器病p678-683JVM,Vol52,No7.
文献2 B.H.Coles ,Avian Medicine and Surgery,2nd ed.,p127.,Blackwell Science.

文献3 Ritchie,B.W.,G.J.Harrison,andL.R.Harrison.1994.Avian Medicine:Principles andApplication.Lake Work,Florida:Wingers Publishing,Inc.pp39-60.
文献4 www.operationmigration.org/Capture_Myopathy.htm
文献5 Coles et al:Avian Medicine,77p,Mosby,Tokyo。
文献6 Redig,p.,1984.”Fluid Therapy and Acid Base in the Critically Patient.”Proceedings of the International Conference on Avian Medicine,Totonto,Canada .pp.59-73.
文献7 Ritchie,B.W.,G.J.Harrison,andL.R.Harrison.pp39-601994.Avian Medicine:Principles
andApplication.Lake Work,Florida:Wingers Publishing,Inc.
文献8 ロリイ・アント/マーク・マーテル共著 赤木智香子訳 飼育猛禽類のケアと管理、1999年、ラプター・フォレスト
文献9 http://www.dion.ne.jp/~akaki_ch/care-first.aid.html
文献10 J. Samour(2000):Avian Medicine, 105-106p,Mosby,Tokyo.
文献11 Coles et al:Avian Medicine,41p,Mosby,Tokyo.
文献12 野生動物救護ファーストエイド・ガイドブック 日本小動物獣医師会獣医事部 動物愛護環境保全委員会,監修及び編集,日本小動物獣医師会,東京、2004.

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